経産省若手ペーパーはなぜバズったのか?
「『経産省ペーパー』は何を見落としていたのか」というイベントに行ってきました。
経産省の若手が作った「不安な個人、立ちすくむ国家」のレポートに関するトークイベントで、登壇者はスマートニュース望月優大さん、社会学者の仁平典宏さん、ココナラ創業者の南章行さん。司会はプレジデントの星野貴彦さんです。
イベント自体は全体的にさまざまな視点からペーパーの問題点や欠けている部分についてふれるもので、だいぶまとめづらいので、印象に残ったところだけ感想を書いていきます。カギカッコ内は「なんとなくこういうことが話されていたなあ」という記憶なので、メモや音声起こしなどではありません。
〇人生すごろく
「この人生すごろく、右のほうは大手企業の正社員というごく限られた人間のモデルだからそこまで問題視はしていないけれど、左は大問題。右のようなモデルを支えるために女性たちがケア労働を担わされて、その負担を避けるために女性たちが結婚や出産から『降りている』現状が見て取れる。少子化の原因はどう見てもここ」
〇資料から透けて見える本音
経産省の若手ペーパーをめぐるイベントに来ている。「高齢者から予算を取って若者に回せば若者が活躍できるというけど、それをやると起こるのは再家族化で、結局若者が家族の面倒を見ねばならなくなり、活躍できなくなってしまう」というのはまさにそうだな。
— アオヤギミホコ (@ao8l22) 2017年6月6日
福祉がなくなって自分たちで高齢者の面倒を見てくださいと言われたら詰む家庭は山のようにあるはず
— アオヤギミホコ (@ao8l22) 2017年6月6日
「ペーパーは世代間対立をあおっていて、財政は限られているから、高齢者から予算を取り上げて、若者に回そうという理屈になっている。でも本来は緊縮以外にも方法はあり(歳入増など)、そもそも議論のスタートが財政削減ありきになっている」
「この図を見ると非常によくわかるんだけど、本来なら『若者への投資』がどのような影響を与えるかを書いていかなければいけないのに、『変化が激しい時代を生き抜く力』みたいなラップみたいな文章になっている。この図を見ると、すべての要素が『財政負担の軽減』に導かれるようになっていて、ここありきなんだなということがうかがえる」
〇日本の金持ちにはノブレス・オブリージュがない
「日本の金持ちにはノブレス・オブリージュがないですよね」
「それは日本の教育がいっけん平等なように見えているので、えらくなったり金持ちになった人は『自分が努力したからだ』と思い、そうじゃない人たちに対して『努力が足りなかったからだ』『もっとがんばれるはずだ』と思っているからなのではないでしょうか」
「日本の金持ちはけっこう話すと気さくですよね。でもそれは弱い人たちへの冷たさと表裏一体でもある」
〇なんだか人選がおかしくない?
「問題にしているような社会の課題を聞くにあたって、話を聞いた専門家がちょっとおかしくないですか?この問題ならもっと聞くべき人がいる気がする」
「松岡さんだけちょっと異質ですよね。だから松岡さんに最初コンタクトをとって、そこから松岡さんの人選で集めていったのでは。そして今回の問題だけではなく、もっと日本の問題全般について聞いているんだけど、今回レポートとしてまとまったのがこの分野だったんでしょう」
「本来ならこの5つのスコープがあって、今回は社会だけについてまとめている。だから色で囲んであるんでしょうね」「ああー、5部構成だったんですね。これからあと4つ出てくる」「いや、それはどうかな…」
〇なぜ経産省ペーパーはウケたのか?
「実は去年にも似たようなレポートが出されていて、でもそれは全然バズっていないんですよね」
「去年はもう少しデータ中心だったけれど、今回はメッセージが書いてある。バーッと読んでいくと最後にメッセージが出てくるのでわかりやすい。FBなどですごくシェアされましたけど、このパワポを読み込んでいる人はそれほどいないはず。読み込んでいたらあんなシェア速度でないはず」
「日本のエリートがタブーに踏み込んだ!という驚きがあったのかもしれませんね」
「若手ペーパーと長谷川豊の透析患者は死ねの話、欲望レベルでは通底しているのではないか。それがちょっと不気味」すごくわかります
— アオヤギミホコ (@ao8l22) 2017年6月6日
「どうしてあのペーパーがあんなにバズった?」という話になっていたけど、感覚として日本の若い世代(特に男性)は「自分たちは損をしている」という意識があり、もっと尊重されたいという気持ちにあのペーパーがうまく刺さってしまったのではないかと思っている
— アオヤギミホコ (@ao8l22) 2017年6月6日
最後の質疑応答で出た「これが若手から出て来たことに価値があると思う。自分は28歳だが、自分ももっと頑張らなきゃという気持ちになった」というコメントがものすごく頭の中で回っていて、「同じ世代である」というだけで連帯感と同族意識を持ってしまうことの怖さを感じる、裏返しでもあるから
— アオヤギミホコ (@ao8l22) 2017年6月6日
私はこの辺がキーなんじゃないかなと思っていて、「同世代(自分たちと同じ存在)」が、「同世代の問題を解決するべく立ち上がり」、「同世代を苦しめているが社会的に触れにくい要因に切り込んでいってくれた」というある種の爽快感があったように思います。
でも思うんですが若者だっていずれは高齢者になるしある日突然動けなくなる日がやってくるかもしれないし、そうなったときに「本当の弱者ではないはず、まだがんばれるはず」と判断される社会に生きていくのはしんどそう。若者/高齢者の二項対立と若者の優遇措置を持てはやすのは、かなり近視眼的な見方だなと感じました。
しかしこのレポート、読めば読むほど「日本は大変だ。もうどうすればいいの~?」という雰囲気があり、このレポートでもってなにか具体的な策を行政に期待するというよりかは(もちろん動いてくれるならそれは素晴らしいことですが)、こうした社会の中で自分はどう行動するべきなのかという指針にするのがよさそう。
ちなみに若手ペーパー、いろんな出版社が声をかけているらしいです。でも出るとしたら印税はどういう配分になるんでしょうか。30人で丸分けなのかな?