5月7日文学フリマ東京「風狂通信vol.4」円居挽特集に寄稿しました
5月7日(日)に開催される文学フリマ東京で発行される「風況通信vol.4」に寄稿しました。今回の特集はミステリ作家・円居挽。私は円居先生との麻雀を小説化した「麻雀稼業」という短編を書いています。
詳細はこちら!
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第二十四回文学フリマ東京、Fホール・カ-58ブースにて頒布
■値段:700円
■総力特集・円居挽ナイト! 今号の風狂通信は人気ミステリ作家・円居挽を徹底解剖!
○第一部「円居先生とミステリの話をしよう」
自著や創作論、さらには作家のSNS事情などについてロング・インタビュー!
○第二部「小説家飲み姿カワイイグランプリ」
京大推理小説研究会出身の円居先生に加え、明大ミステリ研究会出身の青崎有吾先生、成城文芸部出身の柴田勝家先生を招聘! 各文芸サークルの闇を(可愛さで許される範囲で)語り合っていただきました。はたして、いちばん闇カワイイのは誰なのか?乞うご期待!
○第三部「麻雀稼業」
カワイイグランプリの後ひと知れず敢行された決死の徹夜麻雀。 その一部始終をライターのアオヤギミホコさんが衝撃の小説化!
その他、好評連載「逢隈寧子のグミラー修行道」「白樺香澄ちゃんがミステリ映画の話してるから、みんな静かにして!」、日本ドラマ版『そして誰もいなくなった』レビューなど盛り沢山の内容で御送りします。
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寄稿した文章を一部紹介します。
――最強の雀流とは何か?
新進気鋭の推理小説作家である円居挽のもとに届いた招待状には、たった一行だが、しかし熱烈すぎるほど熱烈な歓迎文が綴ってあった。その蠱惑的な文章の下には、日時と場所が書いてある。円居が葉書を裏返すと、癖のある手書き文字で送り主の名が記してあった。
風狂奇談倶楽部。……「風狂」を自ら名乗る奇妙な集団のことを、円居は以前小耳に挟んだことがあった。
彼らの名前が好事家の間で話題になったのは、昨年の夏の事だった。大学の推理小説研究会が行った合宿で、連続殺人事件が発生したのだ。楽しい夏の思い出になるはずだった数日間は、血塗られた惨劇へと姿を変えた。その連続殺人事件はJDC第六班の探偵によって解決されたが、犯行の裏で糸を引いていたのが、件の風狂奇談倶楽部だ。彼らはありふれた恋心を殺意に変貌させ、無残なマーダーゲームに仕立て上げたという。
JDCの調査をもってしても、彼らに迫ることはできたが、罪を問うことはできなかった(あるいは第一班であればそれも可能だったかもしれないが、探偵たちは他にも多くの事件を抱えており、ひとつの推理小説研究会が壊滅したところで、そうそう動く気にはならないのであった)。ただ、事件の裏に風狂あり、という事実だけは、一部の者たちには知るところとなったのだった。
なぜ風狂の連中は、自分にこのような招待状を――?
招待状を濡らしてみたりあぶってみたりと思いつく限りの確認をしてみた円居であったが、一枚の紙のどこにもヒントとなる情報はなかった。円居が選べるのは二つだけ。誘いに乗って真意を知るか、乗らずに全てを忘れるか。
円居は推理小説作家だった。そしてこの因果な職業は、好奇心を抑えることができずに破滅していくと決まっている。
京都から三時間ほどでたどり着いた、東京は高田馬場。学生街特有の喧騒をなんとなく聞きながら、円居は待っていた。終電間際の駅前ロータリーには近くの大学の学生が集まっており、寝転んだり、暴れたり、吐いたりと好き放題している。
円居はこの街は初めてではない。以前、ナンパ師のやり口を学ぶ、という勉強会の名目で訪れたことがあった。ルノワールで三時間ナンパ師のナンパ本について語り合ったあと、すたみな太郎でひどい質の肉とひどい質の寿司を食べるだけ食べた。翌朝最悪の気分で目覚めたのをよく覚えており、円居にとってこの街の印象はあまりよくはない。京都にも学生街はあるが、品という意味では天と地ほどの差があり、人間が暮らす街ではないように思えた。
ぼんやりと光景を無感動に眺めている円居のすぐ前で、たった今、女子学生が新たにゲロを吐いた。きらきらと光る吐瀉物が、コンクリートに流れていく。あーあ、ひどい飲み方やなあ、これだから東京は……。
「円居先生ですか?」
はっとした。すぐ横に、人が立っていた。
よく肥った男と、小柄な男だった。紫の燕尾服に、まるで舞踏会のような珍妙な仮面を付けた二人組は、さながらお笑い芸人か、もしくは異常者だ。周囲の様子を思わずうかがうが、誰もこの二人組に気を割いているようではない。この街ではこんな格好はありふれているのか、それともこの二人が気配を消しているために他者に察知されていないのか、円居には判別ができなかった。
「円居先生ですか?」
今度はもう片割れ――小柄な男の方――が尋ねた。円居は我に返り、首肯する。
「お待ちしておりました! わたくしどもが風狂奇談倶楽部です」
「ずいぶんと気軽に名乗るんやな。JDCの連中に追われているのでは?」
「ふふふ、なんのことだか。わたくしどもは、大変平和なミステリ研究サークルですよ」
「ぼくたちは円居先生のファンなんですよ! わざわざ京都からお越しいただいてとても嬉しいです!」
小柄な男が弾んだ声でそう語る。「あっ、握手、いいですか?」「は、はあ……」応じて握手を交わす。掌はじっとりと湿っていた。
「それではこちらにおいでください。わたくしどもからはぐれませんよう」
肥った男が声音だけは陽気に告げ、円居を導く。彼らはずかずかとロータリーの中に進んでいくので、円居は小走りで追いかけた。人、というよりも肉、あるいは物体、をかき分けていくと、古びたエレベーターがそこにはあった。「使用禁止」という札がかけられているが、二人は気にもせずに降下ボタンを押す。エレベーターは眠りから目覚めたように震えだし、口を開けた。
「さあ、円居先生」
「どうぞ、こちらに」
全身が警告をしている。この下には何か嫌なものがある――直視したくないものと出会う羽目になると、推理小説作家としてのおのれの本能が告げている。しかし同時に、本能はこうも言ってくる。ここで逃げては、面白くないではないか。
円居挽はエレベーターに乗り込んだ。四角い箱は唸りながら下降していく……。
謎の集団によって謎めいた場に導かれることとなった円居挽。
「――最強の雀流とは何か?」
ハスキーな声が響く。台のそばに、チャイナドレスを身にまとった何者かが佇んでいた。ショートカット、けだるげなまなざし。スリットから除く足はやや筋張っていて、何やらパズルめいた刺青が刻んでいる。
ハイヒールでつかつかとこちらに向かってくる足取りは、やや危なっかしい。不安定な足取りに合わせて、頭のバニーヘッドドレス――なぜバニーヘッドドレスを?――がぴょこぴょこと揺れる。アンバランスさがかみ合い、絶妙に世の男の性欲を刺激する姿。背筋に甘い疼きが走る。
「そして円居先生、あなたは隠していらっしゃる」
「……僕が何を?」
「わたくしどもがあなたを呼んだ理由を、あなたはおわかりになっていらっしゃるのでしょう? あなたは京都の名門ミステリ研の雀流を極めた男。あなたは興奮すると、右手の甲にその印が現れるはず――『京』の一文字が!」
円居ははっとおのれの右手の甲へと視線を走らせる。そこには確かに、京の一文字が赤く浮き上がっていた。
――世の中のミス研には、ある不思議な現象が発生する。大学や団体ごとに独自の雀流が生まれ、その打ち筋を極めた者には、聖痕めいた証が現れるようになるのだ。円居も学生時代麻雀にのめりこみ、一週間連続で卓を囲み、十連勝をしたところで意識を飛ばした。目覚めたときには既にその証は刻まれていたのだった。
「字持ち」たちの戦いが始まります。
いつのまにか、卓には三人の雀士が座っていた。サイケデリックな服を着た男、顔を赤らめてぐにゃんぐにゃんになっている女、そして……。
「ぼくがご紹介いたしましょう。京の字持ち――論理麻雀の円居。月の字持ち――催眠麻雀の兎原。早の字持ち――飲酒麻雀の水橋。もうおひとりは……ご紹介するまでもないでしょうか。円居先生は、彼のことはご存知でしょうから」
「ああ、知りすぎるほど知ってるな。講の字持ち……」
「円居さん!」
円居の言葉を待たずに、男が立ち上がり、駆け寄ってくる。みなラフな格好をしている中で、さっぱりとスーツを着こなしている。唇にはさわやかな笑みが載っているが、目は少しも笑っていない。軽薄な口調で、彼は円居に語り掛ける。
「お久しぶりです! 円居さんと打てるなんて嬉しいですよ~、大学ぶりですかね?」
「ああ、久しぶりだな、西泉……」
講の字持ち――接待麻雀の西泉。
円居の大学の後輩で、そして円居の元から去っていった男。
男と男の宿命の戦いが始まる――。
という話です。実際に行われた麻雀をベースに書いたような気がします。
風狂のブースで手に取っていただけると嬉しいです。なにとぞ!