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【クリスティー】「パディントン発4時50分」“なにがなんだかわからない”を恋愛で読ませる剛腕

 

 

クリスマスを間近に控え、ロンドンに買い物に出ていたミセス・マギリカディは、帰りの列車の中で殺人を目撃する。現場はすれ違う列車の客室の中、男が女を締め殺している。男は後ろ姿で顔を見れないが、女が死ぬところを確かに見たのだ……。駅員や警察に申し出ても“おばあちゃんの見た夢”だと思い相手にされず、事件は闇の中に消えようとしていた。しかし、ミセス・マギリカディには友人ミス・マープルがいた。ミス・マープルの推理と人脈による捜査は、孤立した古い屋敷とその家族にたどり着く。

 

クリスマス前のワイワイなイギリスの描写から始まり、ショッキングな殺人事件が描かれる。ここがかなり映像的なシーンで引き込まれる。列車ミステリになるのだろうか…!?と思いきや、対向車両なのでそんなことはなく、屋敷への潜入調査になっていくところが意外で面白い。冒頭で「この引きはめっちゃいいけど…このあとどうするんだ!?短編で終わっちゃわない!?」と思うところだが、そんな心配はものともせず事件が広がっていく。
クリスティーのミステリは動機がものすごく大事。その点このお話は「この殺人で得をする人は誰か?」が全然読めなくて難しい。事件の全貌が掴めないところに仕掛けがあるわけですが、その「何が起こってんのかは全然わからないが、人が死ぬな…」みたいなところを楽しく読み進めることができるのは、ミス・マープルの“足”的役割を果たすスーパー家政婦ルーシー・アイルズバロウの存在が大きい。

ルーシーは高給・期間給でしか働かないフリーランスの家政婦で、そのスキルも人間関係構築力も美貌も教養も優れている。家の主人達が「ルーシーに任せれば長期間家を空けても平気」と安心できるようなプロフェッショナル。そんな彼女がミス・マープルの頼みでお屋敷に潜入し調査をする…というのが前半。彼女がとてもよくてぐいぐい読めちゃう。
ルーシーは屋敷の男達(容疑者達)に次々と求婚されていく。正直どの男もルーシーにはあわねえわ…と読者としては思うわけだが、この恋愛可能性の描写も一部の読者には強烈な目眩しになりうる(ちょっとでも好感を持ったほうが犯人でいてほしくない、みたいな気持ちが、怪しさをスルーさせることは実際にある)。
最後、マープルがルーシーの恋愛関係についてお見通し的発言をするのだが、読み終わった私は「えっ!!!ルーシーは誰が一番いいと思ってんの!?答えを書いてよ〜!!」と思った。私はマープルではないので事件の謎も恋の謎も解けない…。