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閉鎖的な僻地の村のイメージと偏見とエンタメと 「名探偵津田」「ゲゲゲの謎」「ドキュメント20min.ニッポンおもひで探訪」

「因習村」というミームがある。

ニコニコ大百科によると〈(怪奇に関わる)昔からのしきたり、言い伝え等が残っている村である。主にフィクションの村を指して使われる〉とある。横溝正史の金田一耕助シリーズに出てくるような村というのがみんながふんわり思い浮かべているイメージで、だいたいそのしきたりに合わせてホラーやミステリー展開が巻き起こる。

因習村とは (インシュウムラとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

最近立て続けに「村もの」を見た。

 

11月8日・15日に2週連続で放送された「水曜日のダウンタウン 名探偵津田(第2弾)」は、いわゆる因習村を踏まえたドッキリ企画。ダイアン津田が他のロケ企画とだまされて連れてこられた山奥の村で、突如殺人事件が起きる。津田は事件を解決するまで帰れません……という内容だ。

村に伝わる歌にあわせて見立て殺人が起きるという、コテコテの感じで楽しかったし、ハチャメチャに笑った。ここ数ヶ月でいちばん笑った番組かもしれない。

 

11月17日公開の「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」は、鬼太郎の父(目玉の親父)の過去にスポットを当てたオリジナルストーリー。お話も映像も素晴らしくて最高。

こちらもまた、一代で財をなした龍我家によって支配された山奥の村・哭倉(なぐら)村が舞台。妖怪にまつわるしきたり、陰謀がギュギュ〜〜〜と詰められており、横溝はもちろん江戸川乱歩的なものへのリスペクトも感じて楽しかった。

こちらは(鬼太郎なので)妖怪ものなのだが、人間コワイ系であり、「ミッドサマー」的にズラした面白さがある。

 

そんでもって11月20日放送のNHKのドキュメンタリー「ドキュメント20min.ニッポンおもひで探訪~北信濃 神々が集う里で~」。「ドキュメント20min.」というのはNHKが若手ディレクターに経験を積ませるために設定している実験枠で、尖ったテーマや挑戦的な企画が実現しやすい。

「ニッポンおもひで探訪」は、長野県奥地の村の「祭り」を取材する……というところからはじまり、「おっ!?」という展開になっていく。趣向の面白さだけでなく(つまり出オチ的なところではなく)、村の文化にリスペクトをもち、NHKの役割にも自覚的ないい番組だと思った。

この村に関しては、「因習村」という言葉で称するのはすこし抵抗がある。が、確実に前半部分は、「僻地の村」へのあるある的な描写と、ちょっとの違和感で視聴者の関心を引っ張っているところがあろう。

 

面白いと思う感情は、違和感やズレ、ギャップから生まれる。

私たちの頭の中にはいわゆる因習村の共通イメージ(うんうん、あんな感じね)がインストールされていて、そのイメージと照らし合わせながら目の前のコンテンツに触れている。そこで感じるおかしみや衝撃というのは、偏見や差別とも紙一重だったり、そもそも分かたれていない部分がある。

たとえば性別誤認叙述トリックとかは、「こういう言動の人は女性にきまっている」というイメージと偏見を利用して成立している。人が偏見をもっていなければ、性別誤認叙述トリックは成立しない(実際、いまの感覚で読むと全然騙せていない叙述トリックはけっこうある。作品が悪いのではなく、我々の常識が変化したということだろう)。

こうやって短期間に「村もの」を見ると、このタイプのエンタメはどこまで保つだろうと思うところがある。現時点で「閉鎖的な僻地の村」は次々と人が住まなくなっていって、しきたりは悲劇を起こすどころかただ散逸して忘れ去られている(というのを「ニッポンおもひで探訪」で痛感した)。横溝だって定期的にリメイクされているからなんとなく引き継がれているが、吉岡秀隆版リメイクが一段落したら次はもうちょっとかかりそう。

私にとって「ゲゲゲの謎」は、そっちにズラすんだ〜いいですね! と思えるものだったけど、もしかするとそこで感じた面白さがズレじゃなくて、いずれベタになるのかも。というか本作ではじめてこういう物語を見た若い観客(鬼太郎ファンの小学生など)にとってはこれが王道になるのかもな。