働く女子の本心は『タラレバ娘』じゃなくて『ずっと独身でいるつもり?』なのではないか
5億年遅れという風情で『東京タラレバ娘』の話をしますと、ど~~~しても不思議だったのは主人公の仕事に対するスタンスだったんですよね。33歳でそこそこ周囲から認められる仕事をしていて(なにせアシスタントを雇えるくらい)それなりに所得も高くて……という状態だったら、どう考えてももっと仕事にプライドを持っているはずだろう!!!と。
女性の30代であんだけちゃんと仕事をしていたら、一個の仕事がなくなってしまってもまたなんか違うところから仕事を持ってきたり、どんなにマンネリ脚本家だったとしても仕事に対してのプライドはしっかり持っていたりするし、「自分がマンネリだ!」って気づいたときに恋愛映画を借りに走ったりとかしないような気がするんですよ……。
まあ実際は倫子の仕事ダメダメ描写は4巻での展開につなげるためのタメだったわけですが、それでも倫子の仕事に倦んでた感じや、女子会のつまらない感じは、周りのエンタメ業界で働いてる女性の実像とだいぶ離れている感じがありました(もっとみんな人生楽しそう)。
んでもって個人的に「こっちのほうが本心に近い気がする」と思ったのが『ずっと独身でいるつもり?』。
原作(原案)は「こじらせ女子」の発案者で知られる雨宮まみさん。作画は『サプリ』などのおかざき真里さん。
この本はもともとは同名のエッセイで、エッセイなので雨宮まみさんがいわば視点人物でしたが、漫画では「雨宮まみ」さんの要素を3人の女性に分け、オムニバスストーリーにしています。
フリーライターの「まみ」。
フリーランスの「由紀乃」。
デザイン事務所に勤める「シミズ」。
みんな36歳独身。彼氏はいたりいなかったり別れたり別れなかったり。彼女たちは仕事を楽しんでいて、仕事が充実していて、気づいたら周りから「結婚は?」と言われるようになっていた。
「何かさー 好きな仕事一生懸命して ようやく認められるようになって そのお金で好きなことしたり楽しんだり ようやく『できる』ようになったのに 『かわいそう』って」(まみ/1話)
「“由紀乃ちゃん僕のことそんなに好きじゃなかったでしょ”うんごめんそんなに好きじゃなかった なのに死にたくなるのは何故 この年の失恋は命にかかわる」(由紀乃/2話)
「こうやってほんの少しの 小さな楽しみや目標を作って それを支えに1週間を乗り越えて行く それはまあ 自分で鼻先に人参ぶら下げて自分で走る 馬車馬みたいなもんだと思うけど」(シミズ/3話)
そして最後の4話では、まみに結婚話が浮上する。付き合いだして間もない彼氏が「結婚しよう」と言い出すのだ。とんとん拍子に進んでいく結婚話。彼に対して感じる小さな棘に見て見ぬふりをしながら……。
「ライターをやっている」と自己紹介するまみに、彼氏の母はこう言う。「…………それだけ?」
〈――ああ ライターで女でって隙間っぽい……アルバイトみたいに見られるんだよなあ でもずっとなりたかった職業なんです そしてちゃんと自分ひとり食べています貯金もありますそれで私の部屋を引き払い引越します 彼の方にお金ないので式もしませんけれど新婚旅行も行きませんけれど 私あなたの息子さんより しっかりしていますけれど〉
この結婚話がどうなるかはネタバレになるので書かない。が、『ずっと独身でいるつもり?』はこのセリフで終わる。
「幸せって何だろーね」「あ 美味しい」「美味しいものを時々食べること」「好きな本を読むこと」「仕事で小さく『よしっ』って思えること」「夜中にポテチ一気すること」「それらを自分の力で手に入れること」
時々仕事がつらくなると「は~~~全部放り出して大富豪の嫁になりたいな~~~」と思うことはある。でもそれは「宝くじ当たって仕事辞めてえな~」と同じで、本当に仕事を放りだしたいわけじゃなくて、一瞬だけ弱音を吐いてみたいとかそういうことなんだと思うんですよね。それは女性だけじゃなくて男性にもあることだと思う。
結局、やりたいことをやれているんだから、仕事は頑張りたいし、その仕事を頑張るのはできれば「自分」でありたい……というのが(特にコンテンツ業界で働く)女の本心じゃないだろうか。それを捨てて「女性は家に入るかパートで働いてくれればいいよ」と言われても、そこまでして選びたくはない、と感じる。
(だからそういう女性が求めるべきはハイスぺ男性じゃなくて、プライドを折り合えて一緒に歩いて行ける男性だと思うんですけど、そしてそれは「妥協」とかじゃないんですけど、その辺は川崎貴子さんやアルテイシアさんの本で詳しいのでこのエントリでは詳しく書きません)
本当に『ずっと独身でいるつもり?』は染みまくる……おすすめです。
『タラレバ娘』の女たち、特に倫子だって、「自分の力」で幸せになる力のある女だと思うんだけどな~。
もちろん(4巻がああいう展開になったので)これからどんどん倫子が目を覚ましていくんだろうけど、できれば説教コンテンツ性とこの辺の本心が共存する展開になっていきますように。