2020年のTL(ティーンズラブ)ヒット作を振り返る
TL(ティーンズラブ)、読んでますか? 私は読んでいます(コール&レスポンス)。アラサー女子が3人集まれば誰かのスマホにダウンロードされているTLというジャンル。2020年のヒット作を(定点観測的に)振り返ります。
その前にTLとは
TL(ティーンズラブ)とは、年齢制限が入っていないものの性描写(セックス)がある女性向けの恋愛漫画ジャンルを指しています。作品の内容というよりもおおまかにレーベルで少女漫画とTLは分かれており(「ライトノベル」みたいなものだと個人的に考えています)、主に以下のようなレーベルから出版/刊行されている漫画がTLと呼ばれることが多いです。
・ぶんか社「無敵恋愛S*girl」「無敵恋愛S*girl Anette」「蜜恋ティアラMania」「ラブキス!」「禁断Lovers」
・笠倉出版社「絶対恋愛Sweet」、「ラブチュコラ」「蜜愛エスカレーション」(電子)
・宙出版「恋愛白書パステル」「Young Love Comic aya」
・秋田書店「恋愛LoveMAX」「恋愛チェリーピンク」
・秋水社「恋愛宣言」
・ソルマーレ「恋するソワレ」「スキして?桃色日記」「リア×ロマ」(電子)
・一迅社「LOVEBITES」(電子)
・小学館「メルト」(電子)
・モバイルメディアリサーチ「ラブきゅんコミック」(電子)
・ハーパーコリンズ「乙女ドルチェコミックス」「マーマレードコミックス」
・大誠社「ラブコフレ」(電子)
・アルファポリス「Eternity COMIC」
・wwwave「絶対領域R!」(電子)
ほかにもいろいろあるのですが、メインのレーベルはだいたい網羅できていると思います。この中でもぶんか社、笠倉出版社、宙出版、秋田書店、竹書房あたりは、ケータイコミック(いわゆるガラケー)でのTLブームのときからTLを刊行しています。
10年ほど前は紙雑誌をふまえたレーベルが多かったですが、現在は電子専門レーベルや、乙女系ノベル(女性向けの性描写ありの小説。ムーンライトノベルズなどのWeb小説の書籍化なども行われています)のコミカライズレーベルなどもあり、かなりたくさんのレーベルがある印象です。
ややこしいのですが、ハーレクインやレディコミは「ハーレクイン」「レディコミ」というジャンルであり、TLと区別されていることが多いです。また、性的な描写で一世を風靡した新條まゆ先生の「快感フレーズ」は少女コミック(現在はSho-Comi)、刑部真芯先生の「囚」シリーズなどはCheese!で、レーベル的に分類すると少女漫画になりTLとして扱わないことが一般的です。
TLと一般的に称されていますが、現在多くの読者はティーンズ(10代)ではなく、アラサーがターゲット層になってきています。登場人物も10代(制服もの)はほとんどなく、主人公の年齢は20代前半~半ばがほとんどです(だんだん30代ヒロインものも数が増えてきました)。購入時の年齢制限はないことがほとんど(実際白ぼかしだったり構図的に性器は見えないようになっています。男性向け一般紙のセックスシーンと同等か、それより汁気が多い感じ)ですが、レーベル一括ではなくタイトルごとに時々成人向け作品として売られていることがあります。
というわけで2020年のヒット作を振り返ります
前置きが長くなりましたが、2020年のTLヒット作をまとめてみました。TLは書店での実売ではあまり存在感がなく、電子書籍中心で売れています。また電子レーベルが多いこともあり、単話売り(コミックス単位ではなく、1話ごとに展開していく。売れると合本版の電子書籍が刊行されたり、紙のコミックスが発売されたりする)も一般的です。というわけで、ヒット作を見るには電子ストアのランキングを見るのが一番わかりやすいです!
ランキングを公開している4社をまとめてみました(TLが強い「コミックシーモア」と「Renta!」はランキング非公開)。このタイトル、インターネットになんの性別だと思われているかで全然知っているレベルが違いそうです。女性向け広告がターゲティングされていると、この中のいくつかは「広告で見たことある~」という経験があるのではないでしょうか。逆にインターネットに男性だと思われていると、どのタイトルも見たことがない…となりそうです。
全体の傾向
TLはひとつヒット作が出るとジャンル全体でブームになることがあり、「漫画家とヤクザ」ヒットでヤクザものが増えたり、「オネエ失格」ヒットでオネエものが増えたり…と流行が見えてきます。(その辺はcropさんのエントリがすごく参考になります!)
そういう意味では、根強いのが「ガタイのいい公務員」もの。2018年にヒットし、のちにアニメ化も果たした「指先から本気の熱情」はまだめちゃコミック1位を取る人気が続いており、おそらくフォロワーである「警察官」ものもランクインしています。
ちなみに根強い人気つながりで紹介したいのが「才川夫妻の恋愛事情」。2017年から続刊している人気シリーズで、現在は子どもも生まれています。ヒーローがS系・クール系になりやすいTLジャンルにおいて、溺愛系ヒーローものとして今も存在感を放っています。
4社ともにランクインした作品をピックアップ
このランキングに入ってる作品はどれもメチャクチャ売れているのですが、どのストアでも入っている作品として2タイトルをピックアップして紹介します。
お前のすべてを抱き尽くす~交際0日、いきなり結婚!?~
著者は羽柴みず先生。BLでも活動経験がある作家さんです(TLはけっこうBLや百合、少女漫画での活動経験がある作家さんが多い)。レーベルはラブきゅんコミック(モバイルメディアリサーチ)。
主人公は銀行で総合職(融資係)として働く雪野清子(33歳)。婚活で結婚が決まったものの、結婚式の予約までしていたのにもかかわらず、相手から婚姻届が返送されてきてしまう。破断になったショックで仕事に集中できず、ふだんはしないミスをしてしまったところに、助け舟を出してくれたのは鮫島課長(35歳)。鮫島に婚姻届を見られてしまった雪野は、鮫島と飲みに行き、一夜の関係をもつ。翌日、会社では雪野の結婚が嘘だといううわさが出回っていた。振られてしまったと話そうとした雪野を制し、鮫島は雪野と自分が「昨日正式に入籍」したと宣言するのだった―!?
タイトルの通り、交際0日でベッドイン、どころか結婚までしてしまうという導入! ヒーローの鮫島は黒髪眼鏡インテリっぽいですが、脱ぐとけっこういい体をしています。1巻は「鮫島はどうしてそんなことをしたのか?」というのを気になりながら読んでいきますが、1巻ラストにその謎が明かされます。現在3巻まで出ていて、かなりイチャイチャラブラブ度が高い! セックスシーンのボリュームもすごくあって(かつとても絵がきれい)、納得の人気です。3巻ラストはかなり気を持たせる引き(こういう巻をまたいだ引きができるの、人気作品ならではという感じがしますね)。
獣人さんとお花ちゃん
著者は柚樹ちひろ先生。レーベルはラブチュコラ(笠倉出版社)、現在メルトで「オタクも恋する肉食紳士」を連載中でそちらもヒット中、一般レーベルでもきゅん度の高い「ひみつのお付き合いをしています。」を刊行しています。
本作はけっこうガチの獣人もの。少女漫画でも異種族×少女ものは目立っていて(「BEASTARS」や「ズートピア」はもちろんですが、「魔法使いの嫁」ヒットの影響もけっこうあるだろうな~と個人的に思っています)、「贄姫と獣の王」や「蒼竜の側用人」など白泉社系で刊行されているのですが、どちらも獣型と人型(何かの条件を満たすと人型に変化するという展開)がデザインされています。そんな中で、本作はエッチシーンも獣人(体格は人間に近いが、顔や性器は獣寄りのデザイン)で描き切っていてかなり珍しい感じ。かわいい絵柄ですが、獣人ヒーローのデザインには「好きなんだな…!」というこだわりを感じます。
全2巻で完結済み。獣人と人間カップルの恋を通じて、獣人社会と人間社会のすれ違いやわかりあう道を探って頑張るという展開になっていき、読み終わったあとに「いい話だった……!」という気持ちになります。ちょっとマニアックさがある作品がこれだけヒットしているというのもTLジャンルの奥深さですね。
2021年もたくさんのTLが俺たちを待っている!