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鳳学園を卒業できなかった「少女革命ウテナ」としての「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」

「キングスマン」を見た。非常に徳の低いイギリス映画で楽しかった。徳の低いイギリス映画といえば連想するのはエドガー・ライトとサイモン・ペグとニック・フロストが大暴れする「ショーン・オブ・ザ・デッド」「ホット・ファズ」「ワールズ・エンド」三部作。「イギリス人って性格悪いんだな~!」と偏見を強めることができる最高の作品です。

 

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さて私は「少女革命ウテナ」というアニメが好きで、 ふだん「マッドマックスは車が走っていたからウテナ」「グランド・ブダペスト・ホテルはエレベーターが出てきたからウテナ」という雑なウテナ認定をついついしてしまう。なので

「ワールズ・エンドはマジでウテナなんですよ!!!」

と言っても「はいはい、また始まりましたか」と流されてしまうのだが、待ってほしい。「ワールズ・エンド」はマジでウテナなんですよ!!!!!

 

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この「ワールズ・エンド=ウテナ」論というのは私のオリジナルではなく、ツイッターアカウントを爆破してインターネットから消えてしまったある男性が声を大にして言っていたこと。その人に勧められて「ワールズ・エンド」を見て、「マジでウテナだ」となった(「ショーン・オブ・ザ・デッド」と「ホット・ファズ」は先日まとめて見た)。何度でも繰り返すけど「ワールズ・エンド」は本当に本当にウテナ。

「少女革命ウテナ」は、「王子様」を目指す男装の少女・天上ウテナが、鳳学園の生徒会メンバーと「薔薇の花嫁」姫宮アンシーを巡って決闘するうち、アンシーの悲劇と「世界の果て」の思惑を知り、世界を革命する物語。

生徒会メンバーは優れた人間だが全員(主に人間関係を巡る)欠陥と挫折と捨てられない希望を抱えており、「世界の果て」は彼らのその思いを利用して自らの思惑を果たそうとしている……というのが基本設定。

「世界の果て」の正体は「輝くものを失ってしまったけれどそれを認めたくない大人」――鳳暁生。鳳学園は彼の欲望を生きながらえさせるための箱庭装置でしかないことが終盤明かされ、ウテナとアンシーは鳳学園から去る。

欠陥を抱えた生徒会メンバーはウテナとの決闘で内面に変化を兆すが、彼らが箱庭=鳳学園から卒業できるかどうかは明らかにされない。

ただし続く劇場版「少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録」では、箱庭からの脱出がより具体的かつ象徴的な形で表現され、生徒会メンバーもいずれ卒業することが示唆される。

劇中では、あからさますぎるほどあからさまに、箱庭に固執する「大人」と、そこから出ていこうとする少年少女が描かれる。

「さあ、僕と一緒に帰ろう。行きながら死んでいられる、あの閉じた世界へ」
「可哀想に。あなたは、あの世界でしか王子様でいられないのね。でも、私は、ウテナは出るわ。外の世界へ」
「よせ。どうせお前たちが行き着くのは、世界の果てだ」
「そうかもしれない。でも、自分たちの意志でそこに行けるんだもの。さようなら、私の王子様」

こうした「停滞した大人」と「立ち止まらない子ども」の構図は、「輪るピングドラム」のサネトシを巡っても描かれている。

 

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また、このテーマは脚本家・榎戸洋司が何度も作品内で繰り返すもののひとつ。榎戸は五十嵐卓哉とタッグを組んで作ったアニメ「STAR DRIVER 輝きのタクト」で、「過去に固執して輝きを失った大人」ヘッド(トキオ)と「どこまでも未来を目指す輝いている少年」タクトの対比関係を描いている。

最終決戦で勝利を収めたタクトは、素晴らしい空を見てこう断言する。

「僕たちはこれから、これとは違うもっとすごい空をきっと見るさ」

そもそも「ウテナ」はアニメ史的に考えると「エヴァ」のアンチテーゼとしても読める作品ではあるのだが、まあそれはそれとしても幾原も榎戸も何度も「学園を出ろ」「未来ってのはつらいかもしれないけど輝いているぞ」というメッセージを発信している作家ではある(※「桜蘭高校ホスト部」はちょっと違うんですけどそこは若干スルーしておいてください)。

 

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それに対して「ワールズ・エンド」である。

まず「ワールズ・エンド」というタイトルからして「世界の果てでは???」と思うんだけど、もちろん「ウテナ」の世界の果ては寺山修司「レミング」の「世界の涯て」の流れを汲み、「ワールズ・エンド」は違うんだと考えるくらいのギリギリの理性は残っている。

主人公はゲイリー・キング。ハイスクール時代はまさに町の「王」として君臨する男だった。彼は学生時代、4人の幼なじみとともに過ごしたある日のことを「今が人生の最良の瞬間だ」と感じてしまう。――そして20年後、かつての幼なじみは全員社会的に成功し、キングは立派なアル中患者になっていた……。すっかり中年になったキングは、かつて失敗した20年前の伝説の「はしご酒」を今度こそ成功させようと幼なじみを誘い、しみったれた田舎町にみんなで戻る。しかし町の様子はなにかヘンで……? というあらすじ。

もうこの時点で「鳳学園を卒業できなかった生徒会メンバーだ!」と思うし、「これよりもっとすごい空を見ることができなかったタクトくんだ!」と思う。

彼は輝いていた。けれどその輝きは失われた。未来は過去よりもずっと悪い。

そんな「ダメ大人」を少年少女の輝きでボコボコにしていくのが幾原・榎戸作品。しかし「ワールズ・エンド」はそうはならない。

「学園を卒業できなくて何が悪い?」

「過去が最良ならば、もう一度あの過去を再現すればいいじゃないか!」

と言わんばかりのラストシーン。ゲイリー・キングは過去の栄光を「今の自分」で再演し続けることを選択する。「スタドラ」でヘッドが勝利していたらおそらくこういう世界になっていただろうと確信する終わりだ。ゲイリー・キングはこのうえなく幸せ。でも、貴方を見ているほうは、寂しくなるわ。

 

「そうよ、外の世界に道はないけど」「新しい道を造ることは出来るのよね」「だからボクらは行かなくっちゃ。ボクらが進めば、それだけ世界は拡がる。きっと」と影絵少女とウテナは語る。

「僕たちはこれから、これとは違うもっとすごい空をきっと見るさ」とタクトは言う。

でも広がった世界は無味乾燥な灰色のものかもしれないし、すごい空を見ることはできないかもしれない。それでも「人生という冒険は続」いてしまう。

そのときウテナやアンシーやタクトは輝きを失わずにいられるのだろうか。彼らは特別な人間だから大丈夫かもしれないね。でも彼らに続く生徒会メンバーは? 鳳暁生に、ヘッドに、ゲイリー・キングにならないと断言できるのだろうか。

「ワールズ・エンド」は鳳学園を卒業できなかった、もしくは卒業したけれど挫折してしまった「少女革命ウテナ」。つらいけど面白いです。