【クリスティー】「ポアロのクリスマス」クリスマスにはクリスティーはマジ
ダイヤモンドで一財産を築いた偏屈な老人シニオン・リーは、クリスマスに家族を集結させた。四人の息子とその妻、会ったことのない孫娘、過去の仕事仲間の息子……確執や利害で複雑にこじれた人間関係は、クリスマスの夜に悲劇を起こす。老人は密室状態の部屋の中で血まみれの死体となって発見される。老人を殺したのは誰なのか? 殺害の動機とは?
“クリスマスにはクリスティーを”という惹句が昔からあり(クリスマス期間にクリスティーは頻繁に新作を出していたとのこと)、クリスマスなので読んだのだが、マジで面白かった。
フーダニットであり、珍しく密室ものなのでハウダニットでもあり、さらにわりと意外な犯人もの、さらにさらにクリスティーらしい人間関係ものでもある。それぞれの息子の性格づけがはっきりとしていて、その妻との会話が緊張感とリアリティがある。スペインから来た孫娘のあざやかな描写もいい。
「杉の柩」的な、愛情深く理知的だが何かを秘めている女性キャラクターで言うと、息子たちの妻ふたり、リディアとヒルダにグッとくる。彼女たちのセリフと雰囲気によってぐいぐいと読めるし、ミステリ的にもどんどんミスディレクションされる。
クリスマスについて言及しているポアロの会話が好きなのでメモしておく。
「クリスマス期間(タイム)は」と彼(※警察大使ジョンスン)は言った。「平和、善意――その他、そういった精神が人々の心にいきわたっているときだからね」
(中略)
ポアロは自分のテーマを追求した。
「ところで、家族の場合には一年中離れ離れになっていた家族の者が、ふたたび一つところに集まる。こうした条件の下では、そこに多くの緊張が起こることは、きみも認めるでしょう。やさしい気持ちを持たない人もやさしげに見せようとして、自分自身に大きな抑圧を加える! こうして、クリスマスの期間にはたくさんの偽善が――なるほど、それはよき動機からくわだてられた偽善、尊敬すべき偽善かもしれないが――とにかく多くの偽善が行なわれるものです」