「君のクイズ」面白いのは物語なのか、クイズなのか?
生放送のテレビクイズ番組「Q-1グランプリ」の決勝。クイズ研出身者のクイズプレイヤー三島は、現役東大医学部にして「万物を記憶した絶対的王者」のキャッチフレーズをもつ本庄絆と対決していた。七問先取した者が勝利する決勝戦で、お互いのスコアは6−6。最終問題で、本庄は「問題――」と、問題文が1文字も読まれていない段階で正答し、優勝を奪っていった。
「なぜ本庄絆は第一回『Q-1グランプリ』の最終問題において、一文字も読まれていないクイズに正答できたのか?」ヤラセか、実力か、それとも魔法か。三島はクイズの問題を通してこの"問い”に挑戦していく。
小川哲によるクイズミステリ。最初にぶちかまされる「謎」が魅力的で、かつ本庄のキャラクターが謎めいている。読者は三島とともに本庄とクイズの世界にぐいぐいと引っ張られる。非常に面白い……のだが、これは物語のもつ面白さなのか、クイズの世界の豊穣さがもたらす面白さなのかが判断に悩むところがある。
巻末の謝辞に、有名クイズプレイヤーの徳久倫廉、田村正資、伊沢拓司の名前が挙がっている。参考文献では伊沢、同じくクイズプレイヤーの古川の著作が並ぶ。
このあたりの名前が大集合しているのが2020年の「ユリイカ クイズの世界」特集だ。特集を読んでいくと、「君のクイズ」で描かれているクイズの世界のきらめきをそこかしこで見ることができる。
田村(「予感を飼いならす」)はそのものずばり、クイズ番組「クイズプレゼンバラエティーQさま!!」で実際に起こった、「第一回ノー」での正答の例と、クイズプレイヤーの思考を解き明かしている。
徳久(「競技クイズとは何か?」)は、〈ここまで直接的に、過去の経験や記憶を活用できるのはクイズだけだ〉〈クイズもまた人生の一部であり、いずれにせよ頼れるのは自分の人生だけだ〉と書いて、クイズプレイヤーの早押しで何が起こっているのか説明している。これは「君のクイズ」の、人生とクイズが離れがたく結びつくクイズプレイヤーの生き様につながる。
伊沢(「クイズの持つ『暴力性』と、その超克」)では、テレビクイズ制作者とクイズプレイヤーがある意味共犯関係となり、視聴者に理解不能な差を感じさせるという構図がつづられている。「魔法」の生まれる過程の種明かしがされている。
「君のクイズ」の物語は間違いなく面白くてエモーショナルだが、それはクイズそのものがそうだから…と感じる。欲張るともうひとつ掛け算があると文句なしに面白いと思えただろう(本当に欲張りではありますが)。
ちなみに「一文字も読まれていないクイズに正答する」動画がQuizKnockにある(回答するのは伊沢)。
これも切り抜きだとまさに魔法。のちほど伊沢自身が答え合わせをしてくれて、魔法から技術になる。その解き明かしの手つきはミステリ的とも言えるかも。