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「少女革命ウテナ」「ユリ熊嵐」少女が敬語を捨てるとき

ユリ熊嵐」6話で、針島薫がベッドに腰かけて何者かと会話をするシーンがある。針島は赤いシーツを裸の身にまとわせている。明らかに事後っぽいけだるげな雰囲気だ。相手(顔は映らない)も裸にシーツをまとっただけの姿。

「助かったわ。百合城銀子、百合ヶ咲るる。2人の正体がクマだってこと、あなたが教えてくれてたから、あらかじめ罠をしかけておけた」

「でも、例の計画は滞りなく。泉乃純花の死は予定外だったけど、それを利用するなんて……。さすがね! いよいよ明日は椿輝紅羽の誕生日。存分に楽しみましょう」

このシーン、小説版ではこのように書かれている。針島はカーテンの向こうの誰かに「かしずき」報告する。

「百合城銀子、百合ヶ咲るる。両名が熊だということを教えていただき、あらかじめ罠をしかけておいて正解でした」

「はい、例の計画は滞りなく進んでいます。泉乃純花の死は予定外でしたが、それを利用されるとは、さすがです。いよいよ、椿輝紅羽の誕生日。存分にお楽しみください」

 小説版と、基本的には細かい演出も含めてアニメ版に忠実に書かれている(一部、絵コンテを見て書いているような部分もあるようにも思える)。シナリオ段階ではおそらく小説版のような形だったのだろう。

では、どうしてこの部分が変更になったのか?

明確な上下関係(まるで大人と子どものような)が示されることで、箱仲ユリーカが怪しく見えすぎるのを避けるためかもしれない。でも、このシーンのあとにユリーカが登場するため、別に針島がタメ口だろうが敬語だろうが怪しさに(多少の濃淡はあれど)変わりない。

この変更は、むしろ針島のキャラクター描写になっている。このシーンの彼女は完全に相手に心を許している。ふだんは(おそらく)敬語を使って接しているであろう相手と、ほんの束の間だけ対等になったと感じている。それがある種の甘えであり、相手との心の距離は体の距離ほどは近づいていないと気づくことができない程度には幼い。顔も台詞もない「年上の相手」は、彼女に本心を見せていない。

 

この描写は、いやでも「少女革命ウテナ」33話を思い出す。「ウテナ」を見ていない人は以後かなりのネタバレなので目を細めて見てください。

場所はどこかの旅館の一室のよう。固定カメラで、こちらに向かって話しかけてくるウテナを映している。その感じはどこか恋愛シミュレーションゲームの画面のようでもある。

「今日はめちゃめちゃ楽しかったなあ……こんなに遊んだのは、どれくらいぶりだろう。乗りたいものにも、全部乗ったってかんじ。……姫宮も、来ればよかったのに。一人じゃ、こんなに楽しくないんだろうな……言ったことあったっけ?ボクが、一人っ子だったってこと……」

 

「ったくもう、うるさいったらありゃしない。あの先生、ミョウバンってあだ名ついてるんだよ……なんでミョウバンなのかよく分からんけど。その前は、茶碗ってあだ名だったみたい。でその前は……あ、何だっけ? ……何だっけ……?」

 

「あ、いっけない! 朝のパン出しっぱなしにしてきちゃった!……姫宮、ちゃんと冷蔵庫に入れといてくれるかなあ。ビニール袋に入れないと、におい移っちゃうんだよね」

 

「(オセロをやりながら)分量を間違えるってのは、よくあるよ。こないだなんて、マカロニの分量を間違えて、大きな鍋一杯になっちゃったことあったなあ。あと、味付けを間違えると悲惨なんだよね。調節していくと、量がどんどん増えていっちゃって、もう大変。3人分でいいのに10人分になっちゃったりして……取り返し、つかないっつうの? ……まあ作り置きだと思えばいいんだけどさ。ハンバーグとか、お弁当用に。でもシチュー系は無理だな。あれってさ、よく本に書いてあるとおりにやるじゃん? で、その通りやってんのに、どう考えても味が違う! ってことあるよね。あれって、何なんだろう? ……あれ? 逆転だ」

 

「(布団に横になるウテナの背中。沈黙のあとに、こちらを気にしてくる)」

 

「あのさ……今日は……こんなに遅くまで遊んじゃって……帰ったら、すぐに、明日のお弁当の用意しなくちゃ。……えっと……何がいいかな……鮭が残ってたから、鮭と……それから、アスパラゆでて……卵焼きは、さあっとやっちゃうとして……いつもはほら、夕飯の残りでチャッチャッとやっちゃうからいいんだけど、姫宮と二人分あるし……困ったな。……どうしよう……何も思い浮かばないや……。鮭とアスパラと、あと卵焼きと……あと、どうしよう? どうすればいいかな? ……ねえ、何がいいかな? サンドイッチとか……アスパラと鮭をマヨネーズであえて、ゆで卵をつぶして、……わからないな、どうしよう? .困ったな……他に、何かなかったかな? 思い出せないや……。あれも、出しっぱなしだし……大丈夫かな? いつも、あれに入れて、冷蔵庫にあれ、しとくんだけど……今日は―――あっ! ……っあの! 永遠って、何、ですか……?」

この場面で会話をしている相手は鳳暁生。本編ではウテナは暁生に対して敬語を使っているが、このシーンでは最後の言葉以外はタメ口を使っている。話している内容も異常にとりとめがない(幾原監督いわく「そういうもんでしょ(笑)」らしい)(つらい)。このタメ口は針島のものとおそらく同じ種類のものだ(ちなみに劇場版の高槻枝織も同じような言動をしているのだが、劇枝織ちゃんは樹璃以外にはタメ口をかます女のような気がしている)。

 

少女革命ウテナ」でも「ユリ熊嵐」でも、少女が敬語を捨てるのは、相手に心をさらけだしているとき。しかしその相手は、少女が想定もしない「ずるい大人」の考えを持っている。