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「むこうぶち」4巻全話レビュー 実質ウテナ黒薔薇編の傑作エピソード「付け馬」

「付け馬」が大変いいです。

 

 

25話 荒野・3

【打ってる人】江崎、カイ、劉、乾

【一言で言うと】江崎、かりそめのトップ

カイの実力を見切ったと考えた江崎は、高レートマンション麻雀に“ラス候補”としてカイを連れていく。そこにいたのは中華系の“金満老人”劉と乾だった。「カイは手なりで打つ」と見抜いた(つもりの)江崎はカイをラスにする。

26話 荒野・4

【打ってる人】江崎、カイ、劉、乾

【一言で言うと】江崎、カイに翻弄される

劉と乾は100万の吊り上げビンタを提案し、全員がそれに乗る。江崎の読みをミスリードさせる捨て牌を作り、カイは江崎をラスにする。

27話 荒野・5

【打ってる人】江崎、カイ、劉、乾

【一言で言うと】江崎、ハメられる

江崎とカイの様子を見て、中国語でニヤニヤと会話をし始める劉・乾・マンションのマスター。のちに明らかになるが老人たちは孫子を引用しながらカイの戦いぶりを評していたのだった。オーラスでトビやラスを引かされ続ける江崎。江崎は軍資金の2500万円をすべて溶かし、帰りたいと言い出すものの、残り3人は続行を宣言。劉は「ここにいるのは弱者の一生に一度の不様が見たいだけの人でなしなんです」と笑うのだった。

【感想】

途中劉と乾たちがしゃべっている中国語的なテキストは、のちに種明かしされますが孫子老子(おもに孫子)です。訳文がないやつを調べました。これはもちろん全てカイの戦い方についてコメントしています。

鷙鳥之撃至於毀折者節也→猛禽(鷙鳥/しちょう)は獲物に襲い掛かり、一撃で骨を砕き骨を折ってしまう。それは一瞬に力を集中するからである。
不可勝在己可勝在敵→誰にも負けない態勢を整えるのは自分(見方)のことだが、だれもが勝てる態勢とは敵側のことである。
微乎微乎至於無形 神乎神乎至於無聲→なんと微妙なことであろうか、形がないように見える。なんと神妙なことであろうか、音がなくなる。
善攻者敵不知其所守 善守者敵不知其所攻→攻撃の巧みな者に対しては、敵はどこを守っていいのかわからなくなる。またどこを攻めるべきかわからなくなる。

江崎はここで負け切ることで新たな人生を歩み始めます。あと劉ものちほど出てくる。

28話 付け馬・1

【打ってる人】浅井/郷原

【一言で言うと】郷原、代打ちをする

「付け馬」――借金を回収するまで債権者を追い回す取り立てを行う郷原は、今日もサラリーマンの浅井の付け馬をやっていた。浅井は賭場にのめりこんでいるが、麻雀の腕は悪く、負けは膨らむばかり。郷原は浅井の代打ちとなり、勝ち分を山分けすることを提案する。高レート雀荘に向かった郷原は浅井に代わり初戦トップ。幸先のいいスタートを切ったコンビだったが、1欠けで代わりに卓に座ったのはカイだった。

29話 付け馬・2

【打ってる人】郷原、カイ、おじさん2人

【一言で言うと】郷原、カイの誘惑を断ち切り引き返す

郷原が代打ちを提案したのはワケがあった。長く連れ添った妻に子どもができ、金を必要としていたのだ。「待ってろよベイビー! 稼ぎまくってでけえ産院で産んでやっからな!」と気合を入れる郷原。しかしカイに上がられ続ける展開が続く。郷原にオーラス逆転が見える手が入ったが、悩んだ末に3着を確定させる1300点の手を選ぶ。もし欲を見て役満を狙っていれば、カイのテンパイに振り込んでラス落ちだった。カイは「行きますか…陽の当たる側で…」と笑うのだった。逃げ帰った郷原と浅井は、バクチ打ちとしての己の器を知り、まっとうに生きていくことを選ぶ。郷原は田舎に帰って浅井の付け馬ではなくなるので、もう無茶な金の借り方をするなと浅井を諭す。長く取り立てる側と取り立てられる側だった2人には不思議な絆も生まれていたが、2人は朝焼けの中別れるのだった。

【感想】これはメチャクチャ名エピソード。大好きなアニメ「少女革命ウテナ」黒薔薇編に近いエピソードがあります。黒薔薇編は「サブキャラクター」とされるキャラクターたちが自分の暗い想いと欲望によって「黒薔薇のデュエリスト」として覚醒する(そして1話でウテナに倒される)という展開が続くのですが、「今は亡き王国の歌」というエピソードだけは、「君は本当にいい人だね。だから、君の進むべき道はここにはない。帰りたまえ。ここは君のような人間の来るところではない」と告げられ黒薔薇のデュエリストにならずに話が終わります。「付け馬」は1話で「この郷原って人、悪い人じゃないな…」と思わせ、2話で「子どもも生まれるの! 不幸にならないでほしいな…」と思ったところで、「欲を見ない」という選択をしたことでカイから逃れることができるという構成になっています。この場合カイが御影草時で、「君の進むべき道はここにはない」とお告げをしていたのでしょうね。

30話 無尽・1

【打ってる人】佐野、カイ

【一言で言うと】佐野、絶体絶命からさらに絶体絶命へ

かつては雀ゴロ、今は婿入りして名ばかりの工場社長をやっている佐野は、最近麻雀の負けが込んできている。金の工面ができなくなってきて、「無尽」(口数を定めて加入者を集め、定期に一定額の掛け金を掛けさせ、一口ごとに抽籤または入札によって金品を給付するもの)に頼ることに。200万の無尽を99万で落札するという余裕のない佐野は、その金を軍資金に高レート雀荘へ。「負けられない」という思いから狭い麻雀を打つ。カイは佐野に御無礼を連発し、軍資金を全て奪い取る。そして「まだ先がある」と佐野に300万を貸すことを提案し、続行させる。

31話 無尽・2

【打ってる人】佐野、カイ

【一言で言うと】佐野、破滅

カイから借りた300万分もすぐに負けてしまった佐野。このままだと工場の従業員に給料も払えない。300万の借金をカイに返し、麻雀で買って取り戻すために、手形を売ったり無尽の親(開催者)になって金を集めたりと工面する。その金でカイと再戦するも、もちろん負け続け、最後は借金を己の死亡保険金(自殺)で返すことを選択させられる。佐野の死後、彼の戦いを見ていた知人2人は、どこで佐野はやめるべきだったかを振り返る。

【感想】この前の「付け馬」と対照的なエピソード。カイは引き返して光の当たる側で生きられる人間は深追いはせず、もう命の値段が尽きている(戻ってこれない)人間に対しては命を奪うまで追い詰めるというバクチの妖精さん

32話 女衒打ち

【打ってる人】深見

【一言で言うと】深見、カイに遭遇する

スカウト見習いの深見は、憧れている先輩の言葉に従って、ホステスの負け分を取り戻す代打ちをやっていた。手堅いスキルで勝つ深見だが、雀荘でカイとすれ違い、カイのもつオーラに圧倒される。