アオヤギさんたら読まずに食べた

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伊都くんと譜井門くんと矢風くん(SS)

ある日、うちの学園に転校生がやってきた。

「譜井門と言います。面白いことが好きです。よろしくお願いします」

簡潔な挨拶に完璧なほほえみ。教室内におざなりに鳴らされる拍手は、それでもある程度の好感を示していた。

聞くところによると、譜井門は帰国子女――というよりも、ほぼアメリカ人のようなものらしかった。アメリカで生まれ育った譜井門は英語に堪能で、それでいて日本語にも不自由なところは見当たらない。紆余曲折あってこんな島国に、こんな時季外れのタイミングでやってくることになった彼を、クラスは静かに仲間の一員として受け入れた。

譜井門は面白いやつだった。いつの間にそんな時間を作っているのだろうと不思議に思うくらい、よくテレビを見て、ラジオを聞いて、本を読んで、アイドルなんかにも詳しかった。クラスのサブカル連中、オタク連中と話を合わせることなど、譜井門には本当に簡単なことのようだった。

その一方で譜井門には、妙に生真面目なところと、押しの強いところがあった。隣のクラスの上留区は嘘つきで有名だったが、僕たちは彼を放っておいていた。だって彼の言うことなんて、誰も信じないと思っていたんだ。しかし譜井門は上留区がこれまで言ってきた嘘をすべてまとめあげ、彼を糾弾した。上留区はいつのまにか学園からいなくなっていた。

僕は譜井門のことがあまり好きではなかった。僕はわりと優等生で、ゲームやインターネットが好きなオタクで、時々おもしろいことを言う変な奴だと自分のことを思っていた。周囲からもそう見られていたと思っている。でも譜井門がやってきたことで、僕は自分の居場所がなくなったと感じていた。

わかっている。これは被害妄想だ。

しかし僕は被害妄想を止めることができない。

――ある日僕は、譜井門と、そして学級委員をつとめる矢風くんが屋上で話しているのを見かけてしまった。そんな必要なんてないはずなのに、僕はとっさに身を隠し、そっとふたりの様子をうかがった。

「譜井門はおもしろいな。ぼくはずっと、譜井門のようなやつと話してみたいと思っていた」

「……矢風はたまに、何もかもつまらなそうな顔をしているよな」

「うん。つまらないと思うことはある。ぼくの周りにいるやつらは、みんなばかばっかりだよ」

「そんなひどいこと言わなくていいんじゃないか? みんな矢風を慕っているんだろう?」

「譜井門だって、そう思っているんだろう?」

「え?」

「譜井門はさ、自分のことを頭がいいと思っているだろう。周りがみんなばかだって、そう思っているんだろう。だから、きみは他人と合わせられる。ばかなふりも、頭がいいふりもできる。そうだろ?」

「……」

「そうイヤな顔をするなよ。ぼくも同じだからさ」

――僕は、矢風と仲良くなりたかった。いつもにこにこ笑っていて、人当たりのいい矢風と。譜井門に話す矢風は、いつもと同じ笑顔のままで、これまで聞いたことのなかった声をしていた。