「告白実行委員会」シリーズは新しい層に刺さる新しいエンターテイメントなのかもしれない
「好きになるその瞬間を。~告白実行委員会~」を見てきました。
この映画は、「HoneyWorks」というニコ動発のグループの楽曲群をもとにした作品です。イメージとしては「カゲロウプロジェクト」に近いですね。
劇場アニメ化第1弾が「ずっと前から好きでした。」(4月公開)。次いで12月に第2弾にあたる本作が公開されました。
ストーリー
中学1年生の女の子・雛は、2つ上の恋雪先輩と最悪の出会いをする。会うたびに彼が好きになっていく雛。恋雪先輩の卒業を機に、雛は恋心を自覚する。先輩を追いかけて同じ高校に進学することを決めた雛は、おさななじみの虎太朗とともに猛勉強し、入学を果たす。高校で再会した先輩は変わらず優しく、しかもイメチェンをしてかっこよくなりモテ始め……雛の恋の行方はどうなる!?
見ての通り純度100%の恋愛ものです。「今好きになる。」「三角ジェラシー」などの楽曲をもとにしてます。
見た直後の感想。
「好きになるその瞬間を。」柳沢テツヤ監督×ごとうじゅんじ作画監督という「健全ロボダイミダラー」の組み合わせだけあり、胸の描写にこだわりを感じる。雛がきちんと設定的にも描写的にも巨乳(しかも作中で育っているタイプの巨乳)で、下品にならない程度にパイスラなどをキメている。職人の仕事。
— アオヤギミホコ (@ao8l22) 2017年1月10日
入場者特典がJKからの直筆ラブレターなのやばい。恋のお守りにしたい pic.twitter.com/bwgdN1uQ30
— アオヤギミホコ (@ao8l22) 2017年1月10日
「好きになるその瞬間を。」はマジで少女漫画なので先輩との恋は破れて側にいる男の魅力に気がついたりサブキャラどうしで恋愛イベントが発生したり大人びたキャラが意外な人を好きだったりチャラチャラしたヤリチンは演技をしていてそれを見抜いた女に恋をしたりするんだよな
— アオヤギミホコ (@ao8l22) 2017年1月10日
聖地を見てみる
コメント欄を見るとわかるんですが、めっちゃコメントが若いです。「告白したかったー!」とか「私の好きな人も先輩」とか「私も先輩を追いかけて同じ高校に行った」とか、自分語りをするコメントが目立ちます。彼女/彼らにとって、この恋愛ソングは「リアル」なんですよ。
カゲプロと何が違うの?
楽曲をもとにしたストーリーというと、先ほども書いたカゲプロがあると思います。
ただ、カゲプロは「物語」需要、告白実行委員会シリーズは「感情」需要という違いがあるんじゃないかなと思います。系譜もちょっとだけ違う気がする。
カゲロウプロジェクトは、「悪ノシリーズ」「終焉ノ栞プロジェクト」「言の葉プロジェクト」「ヘイセイプロジェクト」あたりが近しい。大きなストーリーが決まっていて、各楽曲ごとに少しずつ真相要素と新しい謎がちりばめられ、それぞれの曲を「考察」していく面白さがあります。今の20~30代には、「『ひぐらし』を曲でやってる」というとわかりやすいかもしれない。
告白実行委員会は、登場人物たちが属している共通の世界観はあるけれど、1つ1つに「謎」はありません。どちらかというと「メルト」「ワールドイズマイン」「ロミオとシンデレラ」系に近いかな……。独立した恋愛感情を歌い、一般的なJ-POP的に楽しみつつも、「(知らない人は知らない)私たちだけの曲」と思わせる楽曲群です。
告白実行委員会って誰にウケてるの?
告白実行委員会のストーリーって、どこまでも少女漫画的です。主人公はかわいく/明るく(スタイルもよかったり友達が多かったりする)、脇キャラに恋愛イベントが発生し、肝心なところであと一歩の勇気が出なかったりします。
たぶん告白実行委員会を見ている層というのは、少女漫画を読んでいる層。それも、「りぼん」「ちゃお」のような小学生向けの漫画は卒業し、「花とゆめ」のようなややオタ寄りにはいかず、「別冊マーガレット」「別冊フレンド」に連載しているマンガを(雑誌ではなく単行本で)追いかけて読んでいる層ではないでしょうか。
これまでこの層に向けては、実写映画というアプローチで作品が供されてきました。たとえば「君に届け」なんかはアニメ化しましたし、本来ならアニメという形で彼女たちに届いてもよかったんですが、いかんせん深夜アニメなんですよね。深夜アニメはだいたい大人とオタクのものなので、彼女達には届かなかった。
女性向けアニメコンテンツの空白
12~18歳の女子向けアニメコンテンツってかなり難しく、実は空白地帯になっています。
男性の場合は、
ニチアサ(~6歳)→妖怪ウォッチ・ポケモン(5~9歳)→ワンピースなどの週刊少年ジャンプ連載作品アニメ(~15歳/昔はこのあたりにデジモンなども入っていた)→深夜アニメ系、もしくはアニメ離れ
と作品の空白がないのに対し、女性は
ニチアサ(~5歳)→アイカツ、プリパラ(5~9歳)→【空白】→オタクコンテンツが好きな女子はオタ寄り(含BL消費)に、そうじゃない女子は実写コンテンツなどに離れていく
という構図になっています。90年代はセーラームーンや、あとは神風怪盗ジャンヌ系の「ちょっと大人のお姉さんが戦うアニメ」があり、10~12歳の需要があったと思いますが、逆に言うとセーラームーンが強すぎてそこを掘っていくことができなくなったのかもしれない。あとは「彼氏彼女の事情」とか「フルーツバスケット」とかかな……。
小学校高学年~中学校のオタ寄りではない女子は、「アニメっていうのは小さい子が見るもの」という思いを抱くようになってしまい、結果としてアニメ系コンテンツから離れる(サンリオなどのファンシーキャラものを集めたりはする)……というのは「女の子は本当にピンクが好きなのか」(超面白い本です)にありました。そしてオタ寄りの子は本来の年齢よりちょっと背伸びしたコンテンツを見るようになるというのは、自分たちの過去を照らし合わせてみると実感できると思います。
女の子は本当にピンクが好きなのか (ele-king books)
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告白実行委員会がカゲプロと一番違うのは、カゲプロはややオタ寄りの小学生を対象にしているのに対し、告白実行委員会はどちらかというと片思いに忙しいリア充寄りの中高生を対象にしているということです。ここにドンピシャで作品を作り、ドンピシャで響いているのは正直素晴らしい。
告白実行委員会は、ニコニコ動画という「いつでも見られる(しかも無料で)」媒体で展開しリア充寄りの(これまでアニメをそこまで見ていなかった)層に人気を博し、なおかつ映画展開をアニメでやることで、空白の層に向けて作品を打ち出せているんじゃないか……と今、まとまらないながらもぼんやり考えています。
昨日の飲み会で聞いた話
ここからは余談ですが、昨日行った飲み会で「東方プロジェクトのオンリーは小学生の参加率がやばい。カゲプロは小学生に人気だったけど、どちらかというとこじらせた小学生だった。東方の小学生はそこまでこじらせておらず、『東方は大人じゃなくて自分たちのコンテンツ』と思って東方を楽しんでいる」という話を聞き、シビれました。
長期連載化やヒットの収束もあり、本来なら小学生の心をつかんでいる「ワンピース」やその他の作品の訴求力が落ち始めているのかもしれませんが、東方を摂取して大人になる世代ってめちゃくちゃアツくないですか?
小学生男子の東方、中学生女子の告白実行委員会……という(割と真剣な)寝言で今回の話を〆ようと思います。
おまけ
以前取材しました。マーケティングの話ですのでぜひ読んでいただきたく。