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あらかじめ失われた彼女たちの恋の話『女子BL』

なぜオタクは「あらかじめ失われた○○」という表記が好きなのか?(突然の巨大な主語)

リブレ出版のシリカ編集部から変化球のBLアンソロジーが発売されました。

 

女子BL (シトロンアンソロジー)

女子BL (シトロンアンソロジー)

  • 作者: 秀良子,志村貴子,西田東,ふみふみこ,はらだ,市川けい,小鳩めばる,糸井のぞ,ためこう,プルちょめ
  • 出版社/メーカー: リブレ出版
  • 発売日: 2015/09/28
  • メディア: コミック
  • この商品を含むブログを見る
 

 

『女子BL』。「…つまりマジすか学園のことですか?」といった誤解も招きかねないのですがそういうことではなく、BLによく出てくる脇役の女の子たちにスポットを当てたアンソロジーです。

BLに出てくる女の子は基本的には当て馬かキューピットや理解者といった「2人の関係を盛り上げるための装置」、もしくは「まったく関係のないモブ」として描かれます。それにスポットを当てるとなると何が起きるか?

めっちゃつらくなる。

参加している作家は秀良子、志村貴子、西田東、ふみふみこ、はらだ、市川けい、小鳩めばる、糸井のぞ、ためこう、プルちょめ。「なるほどな」感のあるメンバーです。数年前だったらここにヤマシタトモコが確実に入っていたであろう……。

 

MO’SOME STING (ゼロコミックス)

MO’SOME STING (ゼロコミックス)

 

 (この辺はもはやBLなのかなんなのかわからなくなっていて、BLとしてはそんな好みじゃないし作品としてもちょっと評価が難しくなるんだけどでもヤマシタトモコ神がこういうのが好きってのはわかるんだ……みたいになってますよね、余談)

 

さて、『女子BL』の作品は、かなりバランスよく昨今のBLと女子の在り方について言及している(一種の批評的な作品である)配置になっています。

 

モブ型

メインのBLカップルを目撃する、語り手としての女子の登場。pixivなどでは「○○ちゃんねる」ネタによく出てくるタイプ。

秀良子「少女C」/秀先生の描く「さえない女の子」ってホントに冴えなくてきつい(心が)

ためこう「種田くんと付き合いたい」/オーソドックスなモブ女子もの。BLカップルの裏の面を見せつけられてしまって…というもの。登場人物みんな性格悪くてよかった。

志村貴子「玉井さん、恋と友情」/『起きて最初にすることは』スピンオフみたいなもの。理解者型にも当てはまりそうな気がするけど、なんというか「関係者になれなかった」という切なさがある感じがするのでこちら。

 

起きて最初にすることは (シトロンコミックス)

起きて最初にすることは (シトロンコミックス)

 

 

 

理解者型

BL=禁断の世界、という図式は今なお残っており、世間体や将来への不安で心を揺らがされるカップルというのは定番ネタ。そのときに理解者女子は颯爽と現れ、「好きなものは好きだからしょうがないっ!」と彼らの背中を押すのです。

ふみふみこ「神の道徳論的証明」/男の娘ネタきたーーー!ふみふみこ先生は「ユリイカ」男の娘特集で秀先生と対談していてそれもすごくよかった。

西田東「貪欲な花」/女子BLというとだいたい学生を想定するものですが西田先生は我々の予想の上を行く。まさかのババア登場。

小鳩めばる「はいはい、かわいいね」/ちょっとガサツな妹に包容力のある兄。そしてゲイバーにいる女装した美少年……。兄妹+もう1人という組み合わせはBLでは〈強い〉。

 

ユリイカ 2015年9月号=男の娘

ユリイカ 2015年9月号=男の娘

  • 作者: ふみふみこ;秀良子,大島薫,井戸隆明,幾夜大黒堂,阿久津愼太郎,二村ヒトシ
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2015/08/28
  • メディア: Kindle版
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三角関係型

これは意外とBLでは珍しいのでは? BLの片割れ(もしくは両方)が登場する女子に特別な感情を持っていて、その感情とBL的な感情が入り乱れて物語ができるタイプのお話。

糸井のぞ「ストックホルム」/糸井先生は『期限切れの初恋』もそうだけど激ヤバな人間を描くのがうまい。

市川けい「ナチュラチュラリィ」/ずっと一緒だった男女の双子と、そこに飛び込んでいく1人の男というと、吉野朔実の『ジュリエットの卵』的なものを連想しますが、ここでは男が男を好きになります。

プルちょめ「おりぼんちゃんと男の子」/これがいちばんBL的文脈の中では意外性のある作品。ビッチ女子に惚れた2人の男子が、ビッチ女子に「3人で付き合おう」と言われてそのまま2人でエロいことをしだすという、pixiv小説だと「なんでも許せる人向け」というキャプションがついているタイプの作品。私はめっちゃ好きです。

そしてここにもう一作品、はらだ「わたしたちはバイプレーヤー」

これがですね、ド傑作です。

 

これまでのどの作品(特に理解者型、三角関係型)もそうなのですが、基本的に出てくる女の子たちは一生懸命でかわいいし行動力がある。しかし彼女たちがBLカップルの片割れに恋をしても叶わない。

それはなぜか?

BLだからです。

ボーイズラブだから、男と男が恋に落ちるジャンルの作品だから。彼女たちは絶対に恋愛に勝利できない運命を課せられ、彼女たちの恋はあらかじめ失われている。

その絶望が「わたしたちはバイプレーヤー」には書かれています。

出る漫画を間違えなければ、君の恋も叶ったかもしれない。最後の見開きを読むと「うおおおおお~~~~~っ!?!?」となります。

 

はらだ先生の最新作『よるとあさの歌』(最高傑作だと思ってる)も実はものすごく女子BLみのあるお話なので、気に入った人はぜひ。尿道を砂利入りローションで攻めるところだけはキツいですが、あとBL初心者の方にもオススメできる一冊であります。

 

よるとあさの歌 (バンブーコミックス Qpaコレクション)

よるとあさの歌 (バンブーコミックス Qpaコレクション)