アオヤギさんたら読まずに食べた

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お金のことを考えたくない人はFP3級を勉強するといい

タイトルを見た瞬間私の中のインターネットの心が「お金のことを考えたくないって言ってるじゃん!!!」と叫びます。でもマジで一回勉強するともう考えなくてよくなるから!

 

オモコロのPR記事がめっちゃよくて、私はこれまで30年近くを「だらしない派」として過ごしており、これは性格なんだよな…と思っていました。この記事に書いてあるだらしないエピソードをほぼ全部体験しています(最後のエピソード以外)。

 家賃を払い忘れたり年金未納してたり学費がギリギリ足りなくなりそうで青くなったりといった笑い話にしてはいけない経験もあります。

こういうのって自分の性格とか生き方が悪いんだろうな……と思っていたのですが(実際生き方はあまり褒められたものではないのですが)、一回思い立ってFP3級を勉強してみたら、突如いろんなことが“理解(わか)”るようになりました。

 

FP3級を勉強すると、以下のことが腑に落ちて、そのあと考える必要がなくなります。

・給与明細を見て、天引きされているのはなんなのかわかり、会社員という立場ってかなり日本社会で優遇されているな~とわかる

・(副業やフリーランスの場合は)なんで請求金額よりも振込金額が低いのかがわかる(源泉徴収!)

・確定申告はそんな難しくないし、したほうがお得だということがわかる

ふるさと納税iDeCo、NISAが呪文じゃなくなる

・保険というのは「残された家族」のために設計されているので、独身の場合は契約しなくてもだいたい大丈夫

・(これはFP3級関係ないけど)スマホの契約を見直すとよさそうということがわかる

 

 

世の中のマネーリテラシー本やYouTube(家計管理はちょっと別ですが)は、ほぼFP3級レベルのことについてまとめてあります。

 

FPとは

「FP」というのはファイナンシャルプランナーのこと。顧客のお金の相談に乗ります。正しくはファイナンシャル・プランニング技能士で、国家資格です。3級、2級、1級とあり、実務的なレベルは2級からです。

FP3級は基礎的なお金の知識を取得しているということを証明する資格で、これを取ってもFPになれるというレベルの資格ではありません。この資格がストレートになにか実務に役立つとか転職とか就職とかに生きるというわけでは全然ないのですが、この資格に向けて勉強し、合格レベルまで知識を身に着けるというのがかなり人生にとってポジティブです。

私はFPを勉強して「あ、私がお金が苦手だったの、性格じゃなくて知識不足だったわ…」となりました。

 

 

試験の話

FPの試験は年に3回あります。「金融財政事情研究会(きんざい)」と「日本FP協会」の2団体がFP試験を実施していて、試験勉強のやり方は9割変わらないのでなんか雰囲気が好きなほうでいいと思います。午前中に「学科」、午後に「実技」があります。回答はマークシートで、○×か択一問題です。実技とありますがこれもマークシートで、実際の業務の例みたいな感じで問題が出ます。

次は5月に試験があり、申し込みは3月12日くらいからスタートします。タイミングばっちり!

 

勉強の話

いろいろな勉強法やYouTubeもあるんですが、私は紙の教科書をオススメします。お金のことがまとまっている本が家に一冊あるという状況が非常に強いです。動画が合っている人は動画学習でもいいと思います(私はテキストのほうが向いているのと、あと文字のほうが時間の融通がききやすいということでテキストが好きです)。電子書籍は「これってなんだったっけ…」をパラパラ読みづらいのであんまりオススメしません。

私は滝澤ななみさんの「みんなが欲しかった!FPの教科書」(最新版)を買いました(※お金の情報は更新がけっこう多いのでできるだけ最新版を買ったほうがいいです)。ただ、扱っている内容はどの参考書でも変わらないので、本屋に行ってパラパラ見て、なんか雰囲気が好きだな~という本を1冊買うのがオススメです。教科書を複数買う必要は全くありません。

 

みんなが欲しかった! FPの教科書 3級 2020-2021年 (みんなが欲しかった! シリーズ)
 

私はこれに同シリーズの問題集を買って、教科書を読む→その項の確認問題を解く→問題集の対応問題を解く という感じで勉強していました。教科書の確認問題を8割くらい解けるようになるまで回せば合格はできると思います。

なお、初めからといてもいいのですが、ちょっと知識があるところからやると挫折しにくいです。そんなにこだわりがない場合は「タックスプランニング」の項からやるのもよさそうです(どの項にも税金が登場するので)。ちなみに私は相続まわりの勉強がめっちゃ楽しかったです。

 

みんなが欲しかった! FPの問題集 3級 2020-2021年 (みんなが欲しかった! シリーズ)
 

 ちなみに問題集は有料スマホアプリでもいろいろ出ていて、私は問題集を買ったあとに存在に気付いたので、問題集のほうはアプリでもよかったかな~と思いました。この辺は好み。教科書を読むだけだと頭に入らないので、何かしら問題演習があったほうが効率がいいです。

 

教材費と受験料

教科書+問題集で2000~4000円、受験料が学科と実技あわせて6000円くらいなので、あわせて1万円くらい。でもFP3級の資格は期限がない(一度とれば更新しなくてもいい)し、世の中で言われていることへの理解度がぐっと上がるので、飲み会を月に1回減らしてとる価値は十分あると思います。

人生の先輩が「私は勉強したいことがあれば先に試験を入れてしまう。そうしたらそこに向けて勉強するから」と言っていて、自走で勉強できる人以外はやはり試験を入れるシステムがもっとも勉強しやすいだろな……と自分でも痛感しました。なので繰り返しになりますが、ぜひ今年5月の試験チャレンジしてみてください。特に駆け出しフリーランスは会社に守られていない分、お金の知識がすごいパワーを発揮するのでとりわけ推奨です。

 

おまけ

ちなみに家計管理本は横山先生のが非常にわかりやすいです。(アンリミに入ってます)

 

年収200万円からの貯金生活宣言

年収200万円からの貯金生活宣言

 

 100万円~月収6カ月分くらいまで貯金ができたら投資のことを考え始めてもいい感じ。これもアンリミに入っている。

 

 あとこれは私の個人的実感なのですが(統計的ではない)、部屋が荒れている(いわゆる汚部屋の)人はお金のことを考える余裕がない傾向があると思います。特にもともとそんなに部屋が汚くなかったのに一気に荒れている人。仕事の負担や精神の不調は部屋に現れやすいです。

そういう場合はお金のことを考える前に、いったんよく寝て、それから家の中のものを毎日10個捨てるのを1カ月やってみてください(レシート1枚とかを1個換算していいです) 部屋の状態が上向きになり、心身の調子がよくなって余裕が出てきたらお金のことを考えてみてください。机の上がきれいなほうが勉強もしやすい。

元汚部屋住人の仲間として応援しています。励ましがほしいぜ…みたいなのがあったらTwitterのDMとかください(できるときは励ましのお返事をします)

結婚1年目の振り返りと暮らしの学び

2020年2月29日に結婚をし、約1年間の結婚生活を過ごしました。喧嘩をしたり深刻よりの話し合いをしたりなど衝突がなかったわけではないのですが、だいたい楽しい日々だったので、のろけもかねてメモをしていこうと思います。

 

前提条件

・同い年、共働き

・夫は限界労働中

・子どもやペットなどはいない(予定も今のところない)

・家は都内1LDK

 

結婚してよかったなと思ったこと

この人と人生のパートナーになるのか? ならないのか? という悩みがなくなった

我々は事実婚ですが、結婚前(恋人として同棲していたころ)は、「この人は自分の人生のパートナーになるのだろうか。ならないんだったら30も近いし他のパートナーを探すことを考えたほうがいいのだろうか」ということを私はいろいろ悩んでいました。「結婚したい~~」と長いこと言っていたんですが相手が「ウ~ン、ムニャムニャ…」状態だったのもあり。ただ結婚という状態になったことで、この悩みが解決し、相手へのモヤモヤも8割くらい減になりました。

 

夫に「結婚してよかったポイントは?」と聞いたら

「毎日が楽しい!」と返ってきました(のろけ)。でもこれは私も思う。毎日楽しいです(のろけ)。

 

お金のことや人生のことを見栄なしに話せるようになった

2年半前は貯金がなくてマジで怒られたりとかしていたのですが、結婚してからは「毎月の収入がこれくらいで、支出がこれくらいで…」みたいな話が気軽にできるようになり(共同貯金とかはしてないですが、なんかふたりの全体感みたいなものを意識するようになったため)、結果として貯金が増えた。相手のお金の使い方にも率直にコメントできるようになりました。

あとは人生に悩んだり自分に自信がなくなったり相手にコンプレックスを抱いたときに、「人生に悩んでいて自分に自信がないしあなたに嫉妬している…」と素直に話せるようになりました。こういう弱いところを言いまくると恋人として魅力がなくなってしまうかも…みたいな考えが自分の中にあったのかも。

 

やってよかったこと

ほぼ毎朝ごはんを一緒に食べること(飲みものだけのときもある)

ここで15分とか30分とか毎日喋ってます。夜はだいたい相手が遅いんですがたまに一緒に録画したドキュメンタリーなどを見ています。

 

相手に伝える&任せるようにしたこと

夫はやや注意欠陥の傾向があり、目の前にあるものを「ない!」と言ったりして、某京極先生のミステリかよ…となってます。特に暮らしへの解像度は低く、「床に服を脱ぎ散らかさないでほしい」と言ってもずっとヘンゼルとグレーテルしてます。

ただこれは本当に注意してないとやってしまうことで、悪気があるわけではないので、それに怒ったりイライラしたりは(まあたまにしちゃうんですけど)しないようにして、「床に落ちてるので拾ってください」というふうに伝えています。あと体調が悪いとき(生理中など)に「お茶いれてほしいな~」とか言われると、「いま月でいちばん調子が悪い日なのにいたわってくれないのですか?」などと伝えると、「はっ、体調が悪かったんだった…」という感じで(やや過剰なくらいに)労わるようになります。

あと導線の改善とか部屋のコーナーの片づけとかをしても気づかないので、「クイズ! 私がやった天才なことはなんでしょう!」「はっ…○○がきれいになっている! えらい!! 天才!!!」みたいなことをやっています。

家事はある程度向こうにも任せたいと思っていたのですが、限界労働が極まるにつれて「向こうに家事を任せていると生活がスタックする」というくらい悪化してきたので、現在は8割くらい私が担当しています。相手にはベランダ&室内の植物の水やり(100%)、あと室内の加湿器の水入れ(90%)、ゴミ出し(30%)を担当してもらっています。限界労働が続くとベランダの植物はマジで枯れるのですが、私はもう手出しをしないことにしました。ベランダの荒れ方で自分の生活の荒れレベルがモニタリングできるようです。ベランダではミント、室内ではサボテンが死を迎えました。

 

導入してよかったもの

食洗機

もう何回目じゃ~いってくらいこの話をしていますが、食洗機は導入して本当に良かったです! 我が家はそこまで自炊をしないのですが、朝にコーヒーを飲む+在宅勤務で自炊機会が増えたので、1日に1~2回は食洗機をまわしています。

食洗機はPanasonicのプチ食洗で、購入+設置は夫がやってくれました。家では基本的に私が食洗機をまわしていて、洗剤などの消耗品購入や機内掃除などのメンテナンスも私がやっています。でかめの初期コストを向こうが負っていることで、毎日回しつつも相手に感謝ができている気がします。

 

 

ツインバードのコーヒーメーカー

夫はコーヒーが好きで、ほぼ毎朝コーヒーを飲んでいます。ツインバードのコーヒーメーカー(これも夫が購入、フィルターなどの消耗品は私が管理、コーヒー豆は夫8割私2割くらいで管理)がとてもよかったです。

2020年途中でデジタルスケールも購入し、豆の重さを測れるようになったのでさらに活躍するようになりました。時々ミル機能だけ使ってドリップで夫がいれています。ちなみにデジタルスケールはスパイスカレー作りのさいにも活躍していて買ってよかった~!と思いました。

 

 

ソーダストリーム

夏に大活躍した。カルディの濃縮リキッドティーとかと割ったり、人が来たときは酒を割ったり。冬は気分転換にもなります。

 

 

現在検討中のもの

家事のルーティーン設定

これまで我が家は大人ふたりぐらしかつ、どっちもあんまりきれい好きではなかったため、片づけや清掃は「気が向いたとき」「来客など必要に応じたとき」にガ~っとやるスタイルでした。

しかし私がここ1カ月で片づけ掃除関連本を20冊くらい一気に読んだ結果、突然片づけ掃除への解像度が爆上がりし、「もしかして……こまめに片づけと掃除をしたほうが結果的に暮らしが楽……?」という車輪の再発明をしました。いやこれまで「毎日きれいにすると楽ですよ!」みたいなのは死ぬほど見てきたけど、うるせ~そんなのできるか~いと思っていたので……。

 

 ↑突然の発見

 

片づけの基本

片づけの基本

 

 ↑これがけっこう参考になった

 

自炊を頻繁にしないし大人二人なので、毎日掃除というのはちょっと頑張りすぎかなという感じがして、ただ「○日おき」みたいなのだと「前回何日前にやったっけ?」というのがわからなくなってしまうので、「3の倍数の日に洗濯機まわしとトイレとお風呂とシンク掃除をする」というルールを考えてみました。

2月はそのルールを試しでやっていたんですが、3の倍数でやるとだいたい全部あわせて10~15分前後、きれいな状態が3日続くので、まあこれはいい感じかな、と思っています。

布団や枕のシーツ類は正直これまでほぼ万年床で、なんかマジで気が向いたときに洗うという感じだったんですが(きれい好きの方は悲鳴をあげるかも、すみません…)、このルール上で月最終日に洗うということにしました。でもこれは平日だともしかしたら余裕ないかもだから月最後の日曜とかそういう設定にするかも…。なお洗濯機は夫が一人暮らし時代から買っていたドラム式洗濯乾燥機で、基本的に外干しは一切していません。

2年前に買ってたのに全然使ってなかった(2か月に1回くらいの起動だった)ルンバも、基本3の倍数に起動させつつ(3の倍数でダストボックスの中身も捨てる)、他の日も思い出したら起動するという感じで運用してみています。

 ↑2019年のルンバとの付き合い方

 

2月は↑のテスト運用をしていて、12月より前に比べてきれいな状態が続いています。しかしきれいな状態が続くと人間は薄情なもので、「きれいな状態に保たれていること」に気付かないんですね。

 

 

 早くもパートナーの「きれいな状態に気づかない」が発動しているので、やや「やってるのにな~~~」という不満が発生しています。

この気持ちの不満の対処法として、ゴチャゴチャしていたころの部屋の写真を撮っておき、定期的に見せて「えっ!?めっちゃきれいじゃない!?」と相手に思い出させるということをやっています。いまのところはそれで気持ちが満たされています。

もし今後スキルがどんどん上がって、かつ相手の限界労働がさらに極まって家にリソースをより割けなくなってきたら、普通に金を要求してもいいかな?という気もしています(今のスキルだとちょっとまだ金銭を要求するには足りない感じがする…)。

 

やりたいこと

我が家には本がたくさん(3000冊くらい?)あるのですが、夫と勉強とか読書会とかしたいなという欲望が生まれてきています。でも限界労働すぎててちょっと今すぐには無理そう…。5年めどくらいの目標で。

 

お題「#この1年の変化

 

「花束みたいな恋をした」の生活とお金

映画「花束みたいな恋をした」、早くも今年一番だ…と断言したくなるような映画でした。一組の文化系カップルの5年間を切り取ったストーリーで、人が恋に落ちる瞬間と、分身のような相手を愛おしむ気持ち、そして少しずつ変わっていく相手に向ける複雑な感情――と、これ以上ないほど「恋愛」を描いた作品でした。

(以降わりとネタバレをするので未読の方はぜひ見てね。傑作なので…)

 

麦が背負っていったもの

本作の一番つらいところは、「夢は絹(有村架純)との現状維持です」と宣言していた麦(菅田将暉)が、イラストレーターとしての挫折を経てECロジスティクスの会社に就職し、だんだんと変化していってしまうところでしょう。圧迫面接を受けて泣いていた絹にかつて「その人(圧迫面接してきた面接官)は今村夏子の『ピクニック』を読んでも何も感じないよ」と憤慨していた麦は、いつのまにかNewsPicksBooksの『人生の勝算』を本屋で手に取り、積読を読む気がせずパズドラしかやる気持ちになれない疲弊した社会人に変わり、「俺ももう感じないのかもしれない」と吐露します。

麦の生活は仕事に侵襲され、彼のやさしさや繊細さも仕事によって変化してきており、絹は違和感を覚えています。彼はなぜ変わってしまったのでしょうか。

ふたりの暮らしを考えていきたいところです。麦と絹が住んでいるマンションは京王線調布駅から徒歩30分。多摩川に臨む広めのワンルーム(バス・トイレ別、40平米くらい?)で、途中で猫を飼えているところからしておそらく築年数は古めです(もしかしたら築40年くらいかもしれません)。実際のロケ地の最寄り駅は矢野口駅ということですが、ふたりがフリーター状態でも払えるくらいで、かつ長岡の父親の仕送り5万円カットがおおきく響くというところからして、おそらく家賃は8~9万円あたりじゃないかと思います(10万円は超えなさそう)。

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たまに感想を見ていると「麦はブラック労働により搾取・疲弊していって」という向きのものがあるのですが、麦の会社はややブラック寄りではありますが社内の雰囲気はそこまで悪そうではなく、ある程度年配の人も働いている(極端に若い人だけいるわけではない)、麦の下でも採用をしているという感じで、「残業なし」の看板は偽りしかないがちょっと忙しめの中小企業として描かれているように見えました。物流・営業ということで、給料は額面で25万円くらいからスタート(手取りは20万円前後)して、3年目で額面30万くらいになっているかなという感じでしょうか。

一方絹はクリニックの医療事務として働き始めています。都内だとだいたい20~25万くらい。そこからイベント会社に転職。「給料は下がるけど」と言っているし派遣ということもあり、額面18~22万(手取りは15万円前後)くらいかなと。

お互い都内ひとりぐらしでこの給料はキツめですが、ふたりぐらしなのでイニシャルコストはかなり抑えられます。一般的に住居費というのは収入の3割未満に抑えるといいと言われているのですが、家賃を9万と仮定すると麦・絹カップルの手取りは30万円以上あればそこそこ健全ということになります。ふたりの世帯月収は足しておそらく40万円を超えているので、わりと余裕があり、お互いに貯金もできそうな財布の状況です。実際、学生時代は「お金がないから文庫しか買えない」と言っていた絹は、社会人になってから単行本を新刊で躊躇なく買っているし、観劇なども積極的にいっているようなので、暮らしはカツカツではありません。若者が全体的に貧しくなっていることを坂元作品はていねいに拾い上げてはいて、「花束」でも全体に通底している空気ではあるものの、麦と絹は作中で富裕層ではないですがけして貧困カップルでもないのです。

実は「暮らしのために稼ぐ」――ふたりの生活を「現状維持」することだけを考えると、麦はそんなにシャカリキになって働く必要はありません。絹が収入は下がるけど転職を決断できたのも(いざとなれば実家があるだろうという思考は絶対にあったとは思いますが)、ふたりの生活がカツカツではないからでしょう。

麦は仕事が増えるたび、過剰に生活を背負っていきます。絹が望んでいるわけでもないのに「頑張って稼ぐから(絹は)家にいなよ」と、養うようなことを言ってしまう。労働でつらいことがあっても「生活のため」と言い切っています。ただ繰り返しますが、ふたりの暮らしは少なくとも現時点では(現状維持が目的であるなら)そんなに頑張らなくても、麦が一心に背負わなくても成立しているのです。

終盤、麦は結婚のビジョンを口にします。1~2人ほど子供を作って、ワンボックスカーを買って…という未来予想図です。この未来を実現するには、確かに麦と絹の収入では足りません。一般的に子どもの教育費用は大学まで出して1人あたり1000万円といわれています。18歳までにそれを用意するとして年に60万ほど貯めていくような計算なので、そうするとふたりは月にプラス5万は稼ぐ必要があるでしょう。1000万に子どもの生活費は含まれていないので、実際は月にプラス7~10万ほどあるといいかもしれませんね。

…というふうに、麦の未来予想図に照らすと、確かに今の麦・絹カップルの収入は頼りないものです。ただこの未来のビジョンは「現状維持」ではとてもないですし、麦と絹は同じビジョンを共有していません。ふたりの関係が決定的に破綻してから共有される光景です。とはいっても麦がこういった試算を現実的にしていたとは考えづらく、おそらく「もっと稼がないといけない気がする」というふんわりした気持ちと焦りで“責任”を負っていったように思います。

 

本当に「生活のため」“だけ”だったのか?

未来を勝手に背負ったことによって今が終わってしまうのは非常に示唆的ではありますが、同時に麦が仕事にのめりこんでいったのは、「絹との生活のため」と同時に、「自分のため」でもあったように思います。

『格差は心を壊す 比較という呪縛』を読んでいて、あっ麦くんやないか…!となった一節がありました。

現在、多くの巨大多国籍企業のCEOには、同じ企業で働く正規雇用者の最低賃金の実に300~400倍もの報酬が支払われている。社会的地位が賃金の多寡で決まる社会において、無価値な人間であることを知らせる効果的な方法は、同一企業で働く特定人物の0.25%の給料しか支払わないことだ。

この話はさらに相対的な貧しさというのはその人物の自尊心を損なわせるというところにつながっていくのですが、これはまさに「3カットで1000円しか払ってもらえなかった」麦ではないでしょうか。

麦もいくらなんでも3カット1000円が搾取だというのはわかっています。相場の金額感もあったでしょう。それよりずっと低い価格しか支払われないというのは、麦の自尊心を削っていきます。また3カット1000円に抗議したときに、「いらすとやでいいです」と言われたのもより自尊心を削られる言葉だったでしょう。

フリーのイラストレーターとしての活動は、麦の自尊心をボコボコにしていきました。それに対し、就職した先での仕事というのは、「やる気を見せると仕事を任される(おそらく給料もちょっとだけ上がる)」というふうに(相対的に)できており、やれば相場の金とそれなりの評価がもらえることそれ自体が、麦の自尊心を回復してくれたのではないでしょうか。

絹と別れ、半年ほどの時間を経て偶然再会するときの麦は、一番のめりこんでいたときよりもいくぶん余裕があるように見えます。同じ会社で落ち着いたのかもしれないし、もしかしたら転職をしてるかも。それはイラストレーター仕事で削られまくった自尊心が回復してきて、仕事への依存状態が改善されてきたということなのかなと感じました。ひとりぐらしになった麦くんの部屋の様子も荒れてなかったですし。

社会が彼をすり減らせたのはそうなのですが、同時に癒やしたものもある、だからこそ麦は仕事の侵襲を受け入れたところがある。これは麦に限ったことだけではなく、仕事というものがもっている強いパワーで、だからこそ人は妙に働きすぎてしまったり、仕事での役割を自分のアイデンティティにしすぎてしまったりするのだなと、そんなことも思いました。本作を見ると「社会が悪い」と言いたくなってしまいますが、社会も悪いが、しかし社会も悪いことばっかりじゃない…となんだかフォローを入れたくなってしまう気持ちも同時発生しますね。

 

 

花束みたいな恋をした

花束みたいな恋をした

  • 作者:坂元 裕二
  • 発売日: 2021/01/04
  • メディア: 単行本
 

↑シナリオブック。読み直してまた泣いてしまった。

 

 

↑topisyuさんが激推ししていたので読んだ。