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孫の誕生に浮かれた父、サイドカーを買う

今年7月に、姉が子どもを産んだ。私にとっての甥、母と父にとっての孫の誕生。母は孫の誕生で人生へのやる気を思い出し、そして父は浮かれてサイドカーを買った。

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なぜ父がサイドカーを買ったのか?

「孫を横に乗せてこの車で走る俺、カッコよくない!?」

すごくバカな理由だった。

 

父ははた迷惑な人間であって、小さい頃から父に対する心象はよくない。私の父母は私が小学生の時に離婚しているが、非常に英断だったと思う。おかげで私はグレずにすんだし、父のことを憎まずにすんだ。

父はあまりにも問題児だったため、通っていた私立の小学校をクビにされかけ、危うく最終学歴が幼稚園になるところだった。中高も暴れまくり、高校生になってバイクの免許をとると高尾の山の石段をバイクで駆け上がり、石段をいくつか破壊、祖母(父にとっての母)にハチャメチャに怒られた。

しかしそれで懲りる人間ではない。そのあともサンダルでバイクに乗り事故って両足の指の爪を一部失い(切れないのでやすりで削ってるらしい)、私の母と出会い、結婚し、姉と私が産まれた。母に「なぜ父と結婚したの?」と訊いた。「勢い」と答えた。

紆余曲折あって離婚したあと、父は再婚し、男の子が産まれた。父は成長してきた息子に「お前の姉ふたりは高学歴だからな、お前が頭が悪かったらそれはお前のお母さんの遺伝子のせいだぞ!」などと語りかけ、その場にいた全員からブーイングを食らっていた。

 

産まれた孫を、父はかたくなに抱こうとしなかった。

「俺は、お姉ちゃんも美帆子も息子も抱いたことないんだよ!(ドヤ顔)」

「それ全く誇れないからね…」

まだ甥は首がすわっていないため、抱くのが怖いらしい。最近は首がすわってきたので、「預かってやろうか」などと言っている。

「でもおむつの替え方もミルクのあげ方もわかんない」

「それでなぜあずかろうと思ったんですか?」

「だってやり方わかんないんだもん!インストールされてないから」

「私にだってインストールされてないわ!母性本能だって持ってないよ!学んでできるようになるんです」

「えっ…女性の本能にインストールされてるもんじゃないの?」

こんな人間でも3人の子どもを作れるのは何かの間違いなのではないか?

「歩けるようになれば面倒みられるんだけどな~」

「何年後の話だよ!お父さんさ、子どもを抱くっていう重要な実績を解除できてないんじゃないの」

 

そんな父がサイドカーを買った。祖母のお見舞い帰りに、彼は私と姉と甥を乗せた車を自分の家へと走らせた。

「これにさ~、乗せたいんだよね」

団地の駐車場に停めてあるサイドカーは明らかに異様だった。かっこよかった。「いくらだったの?」と訊いたら目をそらした。田舎町をときたまこの車で走っているのだと言う。

「これで走ってるとな、奥様方が寄って来るんだよ」

「明らかに異常な光景だからな」

「この車で恵比寿とか代官山とか走りたい」

「なぜ」

「見る人が見れば俺がスゴイのがわかる」

サイドカーは運転が難しいらしい。基本的にバイクの馬力で動かしていて、サイドカー部分はくっついているだけなので、曲がるのも止まるのも難しいのだと。

「金があればベンツは買えるんだよ。だけどサイドカーは金があっても乗れるもんじゃない。バイクのさらに難しくなったやつだから」

誇らしげである。そんな危ないものに孫を乗せようとしている。

「ひとりだとバランスが悪いんだったら、ひとりで乗るときはどうしてるの?」

「ポリバケツ乗っけてる」

「ポリバケツ」

「水を入れたポリバケツを重石にしてる」

「重石」

父はサイドカー部分の座席からポリバケツを取り出し、下ろした。

「まだ…乗るのはムリだよな~」

「座席から転がり落ちちゃいそうだよね」

父の夢の実現には、もう数年かかりそうだ。

 

姉が甥をバイクの座席に座らせる。「いかついサングラスみたいなのがほしいな~」チャイニーズマフィアの親子のようになりそうだ。父はツルッパゲことスキンヘッドなので、サングラスをしたらカタギには見えない。

甥の後ろには父が、甥の横には姉が。父のぎこちない笑顔と、むずがっている甥と、にこにこしている姉。3人の写真を撮る。

父はサイドカーから去る間際、甥の身体を抱き上げた。

「あっ、抱っこした」

「すごい緊張する、もう無理」

「え~初体験写真に撮らせてよ」

「やだ」

3人実子をスルーして、父はようやく孫で実績を解除できたのだった。