アオヤギさんたら読まずに食べた

暮らし、エンタメ、金、自己啓発、ときどき旅

「DK心変わりの理論/アリアリ理論」と「セックストリガー」から見る、悲しきペニス力

「女は好きな男とセックスするのではない。セックスした男を好きになる」

水野敬也さんの名作男性向けモテ指南本『LOVE理論』(2007/新装版2013)には、このような文章が書いてある。「DK心変わりの理論/アリアリ理論」の項である。

 

LOVE理論

LOVE理論

 

 そこで紹介されているのは、水野さんの大学時代のエピソード。テニサーで巡りあった女性・篠崎さんとおうちデートをし、「愛している」と告白し、ディープキスまで持ち込んだ。しかし彼女は

「今日は、ここまでね」

と水野さんを制止。水野さんは交際を確信し「うん!」と答え、手を引いた。しかし翌日、彼女の態度は急変。デートを断り、最終的には「うっとうしい」の一言で振った。なぜディープキス(DK)までしておいて心変わりを……? そう思った水野さんはある答えにたどり着く。

篠崎は「その場の勢い」で俺とキスをした。

しかし、自宅に戻り、冷静になった篠崎はこう思ったに違いない。

「あ~あ、キスしちゃったよ」

もしくはこう考えたかもしれない。

「あいつ、カン違いするだろうな」

自分にその気がないのに相手が盛り上がったりすると、気持ち悪いと感じるのが人間である。こうして篠崎は俺に対し、妙によそよそしい態度をとるようになっていったのである。

(中略)

もし順調に手をつないだりキスをしても、ディープキスをした日に女を家に帰してしまった場合、女の気持ちは急降下し、それ以上の発展はないということを表している。

 

そして水野さんはこの一件以降、ディープキスをした場合、その日のうちに絶対にセックスに持ち込むことを決める。その結果、こう答えを導いた。セックスをすると、女は男を好きになる、と。その理由はこのように説明されている。

セックスは「女にとっての価値そのもの」だからである。

女は日々綺麗に着飾り化粧をするが、それは、自分の持つセックスという価値を高める行為に他ならない(本人たちは否定するかもしれないが、無意識的にそうしている)。そうやって自分の持つセックスの価値を高め、いかに男に高く売りつけるか、日々その努力をしているのが女という生き物である。

つまり、もし仮にその場の勢いであってもセックスした相手がしょぼいと困るのである。セックスをした相手の男がしょぼいと、自分もしょぼいということになってしまう。(中略)セックスをした後はこう考える。

「かなりブサイクな男だったけど……でも優しいところもあったし。全然お金持ってないけど、でも面白い人だったし……アリかな。うん。アリかナシかで言ったら、アリ。あの男アリだわ。全然アリ」

こう自分に言い聞かせ、自分の判断ミスではなかったと自己説得を始めるのだ。これが俺の提唱する「アリアリ理論」だ。この「アリアリ理論」によって女はセックスした男を好きになっていくのである。

 この「女はセックスした男を好きになる」というのはよく聞く話だ。実際女性からそういう話を聞いたこともある。ナンパ界隈や恋愛工学でもよく言われている話で、「セックストリガー」という言葉で表されている。

(元ネタは『ザ・ゲーム』にあったかどうか、ちょっといま本が見つからないので探せないんだけど、2014年の金融日記にはこの言葉が登場しているもよう)

 

ザ・ゲーム 退屈な人生を変える究極のナンパバイブル (フェニックスシリーズ)

ザ・ゲーム 退屈な人生を変える究極のナンパバイブル (フェニックスシリーズ)

  • 作者: ニール・ストラウス,田内志文
  • 出版社/メーカー: パンローリング
  • 発売日: 2012/08/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • 購入: 10人 クリック: 75回
  • この商品を含むブログ (3件) を見る
 

 

中にはホルモンの働きや脳科学のしくみからそれが言われていたりもする。ホルモンはわからないでもないけど脳科学に関しては明らかに眉唾。

それはそれとして。

この理論は非常によくできている。理論実践者にものすごく優しい理屈なのだ。

説得力がある

間違ってはいない。100人いたら50人くらいの女性が「わかる」って言うんじゃないかな(私は姉が大好きなんだけど姉も「女はセックスしちゃだめだよ。好きになっちゃうから」と言ってた)。

偏見を言うと、体験人数が少ない人のほうがこれに陥りがちだと思う。100人のうちの1人だったら「今回はノーカンで!」と言えるけど、2人のうちの1人だとなんとしてもそれなりにまともな恋愛体験として記憶したがるんじゃなかろうか……。

セックスを肯定してくれる

モテ理論を勉強する人はざっくり2種類いて、「彼女が欲しい」タイプと「セックスがしたい」タイプ。「まずセックスしろ」という教えは、特に後者に優しい。

たとえば「その日のうちにセックスをすると女が絶対に不幸になる」みたいな教えが一般的だったら、さすがに実行するのにためらう人も出てくるだろう。でも「セックスすれば女は好きになる」と言われれば、「セックスできるし、好きになってくれるんだから、Win-Winじゃん!」となる。

またこの理論があれば、「もっと深い付き合いになってからじゃないと身体の関係は持ちたくない」と女に言われたとしても、「うんうん、建前建前。そんなこと言ってセックスしたら好きになるでしょ」と聞き流し力が上がるのもポイントが高い。

認知バイアスがうまいこと機能する

同じ女性に、セックスをした場合としなかった場合を両方試すことは不可能だ。つまり、誰も「あのとき振られた彼女と、セックスしていても結局振られたかもしれない」と確かめることはできない。

またその逆もあって、「セックスをしたから自分を好きになった子」は「セックスをしなくても自分を好きになった子」だったかもしれない。それを確認する術はほぼない。にもかかわらず、この手の論理は「セックスする=好きになる」と断言してしまっている。

また、セックスをしても「なかったこと」や「ノーカン」にされるケースは当たり前のように存在する。その場合は「セックスがうまくなかったから」という逃げ道が用意されている。よく「セックストリガーがうまくささらなかった」という表現をされているのを見かけるが、うまくささらなかったんじゃなくて、そもそもその女性にはセックストリガーがなかったんじゃない?ということも思う。

この理論は大きな穴があるけれど、成功バイアスでうまいことごまかされている。

あっあとみもふたもない言い方をすれば、「1回もやらずに振られる」のと「1回だけやって振られる」だと、後者のほうがお得感があり、「ま、1回やれたからいっか。次次~」というふうに「なかったこと」カウントもされやすい。

感じる……ペニス力……

ペニス力(ちから/りょく)。それは「ペニスには何か特別な力がある」というファンタジーである。

エロ漫画では「ペニスには勝てなかったよ……」「俺のペニスがお前を女にしてやる」「堕ちたか……ペニスに……」みたいな表現で既出。私もそういうファンタジーを好んで読んでいるところはあるんだけど、この理論からはそのファンタジーの香りがする。

水野さんの理論、そしてセックストリガーは、ペニスが女の子の気持ちを変えてしまうような、魔法のような力があるようにも受け取れる。決して男のプライド(と書いてペニスと読む)は折られない。優しい。

たまに「いや、セックスしたくらいで彼氏ヅラすんなって思うよ」と言う女性が出てくると、理論の信者たちはハラハラしてしまう。理論の否定は、すなわちペニス力の否定である。だから猛反発したり、「気づいてないだけですよw」と反論したりする。

悲しみがある。

 

もう一度まとめておくと、「DK心変わりの理論/アリアリ理論」も「セックストリガー」もそれなりにありうる話だと思うし実際にそういう例もたくさんあると思う。しかし当たり前だけど全てをそれで説明することはできないし、全く当てはまらない女性もいる。

ペニスファンタジーにすがるのは悲しい。全てのペニスにいつか平穏が訪れますように。