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「告白実行委員会」シリーズは新しい層に刺さる新しいエンターテイメントなのかもしれない

「好きになるその瞬間を。~告白実行委員会~」を見てきました。

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この映画は、「HoneyWorks」というニコ動発のグループの楽曲群をもとにした作品です。イメージとしては「カゲロウプロジェクト」に近いですね。

劇場アニメ化第1弾が「ずっと前から好きでした。」(4月公開)。次いで12月に第2弾にあたる本作が公開されました。

 

ストーリー

中学1年生の女の子・雛は、2つ上の恋雪先輩と最悪の出会いをする。会うたびに彼が好きになっていく雛。恋雪先輩の卒業を機に、雛は恋心を自覚する。先輩を追いかけて同じ高校に進学することを決めた雛は、おさななじみの虎太朗とともに猛勉強し、入学を果たす。高校で再会した先輩は変わらず優しく、しかもイメチェンをしてかっこよくなりモテ始め……雛の恋の行方はどうなる!?

見ての通り純度100%の恋愛ものです。「今好きになる。」「三角ジェラシー」などの楽曲をもとにしてます。

見た直後の感想。

 

 

 

聖地を見てみる

コメント欄を見るとわかるんですが、めっちゃコメントが若いです。「告白したかったー!」とか「私の好きな人も先輩」とか「私も先輩を追いかけて同じ高校に行った」とか、自分語りをするコメントが目立ちます。彼女/彼らにとって、この恋愛ソングは「リアル」なんですよ。

 

カゲプロと何が違うの?

楽曲をもとにしたストーリーというと、先ほども書いたカゲプロがあると思います。

ただ、カゲプロは「物語」需要、告白実行委員会シリーズは「感情」需要という違いがあるんじゃないかなと思います。系譜もちょっとだけ違う気がする。

カゲロウプロジェクトは、「悪ノシリーズ」「終焉ノ栞プロジェクト」「言の葉プロジェクト」「ヘイセイプロジェクト」あたりが近しい。大きなストーリーが決まっていて、各楽曲ごとに少しずつ真相要素と新しい謎がちりばめられ、それぞれの曲を「考察」していく面白さがあります。今の20~30代には、「『ひぐらし』を曲でやってる」というとわかりやすいかもしれない。

告白実行委員会は、登場人物たちが属している共通の世界観はあるけれど、1つ1つに「謎」はありません。どちらかというと「メルト」「ワールドイズマイン」「ロミオとシンデレラ」系に近いかな……。独立した恋愛感情を歌い、一般的なJ-POP的に楽しみつつも、「(知らない人は知らない)私たちだけの曲」と思わせる楽曲群です。

 

告白実行委員会って誰にウケてるの?

告白実行委員会のストーリーって、どこまでも少女漫画的です。主人公はかわいく/明るく(スタイルもよかったり友達が多かったりする)、脇キャラに恋愛イベントが発生し、肝心なところであと一歩の勇気が出なかったりします。

たぶん告白実行委員会を見ている層というのは、少女漫画を読んでいる層。それも、「りぼん」「ちゃお」のような小学生向けの漫画は卒業し、「花とゆめ」のようなややオタ寄りにはいかず、「別冊マーガレット」「別冊フレンド」に連載しているマンガを(雑誌ではなく単行本で)追いかけて読んでいる層ではないでしょうか。

これまでこの層に向けては、実写映画というアプローチで作品が供されてきました。たとえば「君に届け」なんかはアニメ化しましたし、本来ならアニメという形で彼女たちに届いてもよかったんですが、いかんせん深夜アニメなんですよね。深夜アニメはだいたい大人とオタクのものなので、彼女達には届かなかった。

 

女性向けアニメコンテンツの空白

12~18歳の女子向けアニメコンテンツってかなり難しく、実は空白地帯になっています。

男性の場合は、

ニチアサ(~6歳)→妖怪ウォッチ・ポケモン(5~9歳)→ワンピースなどの週刊少年ジャンプ連載作品アニメ(~15歳/昔はこのあたりにデジモンなども入っていた)→深夜アニメ系、もしくはアニメ離れ

と作品の空白がないのに対し、女性は

ニチアサ(~5歳)→アイカツ、プリパラ(5~9歳)→【空白】→オタクコンテンツが好きな女子はオタ寄り(含BL消費)に、そうじゃない女子は実写コンテンツなどに離れていく

という構図になっています。90年代はセーラームーンや、あとは神風怪盗ジャンヌ系の「ちょっと大人のお姉さんが戦うアニメ」があり、10~12歳の需要があったと思いますが、逆に言うとセーラームーンが強すぎてそこを掘っていくことができなくなったのかもしれない。あとは「彼氏彼女の事情」とか「フルーツバスケット」とかかな……。

小学校高学年~中学校のオタ寄りではない女子は、「アニメっていうのは小さい子が見るもの」という思いを抱くようになってしまい、結果としてアニメ系コンテンツから離れる(サンリオなどのファンシーキャラものを集めたりはする)……というのは「女の子は本当にピンクが好きなのか」(超面白い本です)にありました。そしてオタ寄りの子は本来の年齢よりちょっと背伸びしたコンテンツを見るようになるというのは、自分たちの過去を照らし合わせてみると実感できると思います。

女の子は本当にピンクが好きなのか (ele-king books)

女の子は本当にピンクが好きなのか (ele-king books)

 

 

告白実行委員会がカゲプロと一番違うのは、カゲプロはややオタ寄りの小学生を対象にしているのに対し、告白実行委員会はどちらかというと片思いに忙しいリア充寄りの中高生を対象にしているということです。ここにドンピシャで作品を作り、ドンピシャで響いているのは正直素晴らしい。

告白実行委員会は、ニコニコ動画という「いつでも見られる(しかも無料で)」媒体で展開しリア充寄りの(これまでアニメをそこまで見ていなかった)層に人気を博し、なおかつ映画展開をアニメでやることで、空白の層に向けて作品を打ち出せているんじゃないか……と今、まとまらないながらもぼんやり考えています。

 

昨日の飲み会で聞いた話

ここからは余談ですが、昨日行った飲み会で「東方プロジェクトのオンリーは小学生の参加率がやばい。カゲプロは小学生に人気だったけど、どちらかというとこじらせた小学生だった。東方の小学生はそこまでこじらせておらず、『東方は大人じゃなくて自分たちのコンテンツ』と思って東方を楽しんでいる」という話を聞き、シビれました。

長期連載化やヒットの収束もあり、本来なら小学生の心をつかんでいる「ワンピース」やその他の作品の訴求力が落ち始めているのかもしれませんが、東方を摂取して大人になる世代ってめちゃくちゃアツくないですか?

小学生男子の東方、中学生女子の告白実行委員会……という(割と真剣な)寝言で今回の話を〆ようと思います。

 

おまけ

www.itmedia.co.jp

以前取材しました。マーケティングの話ですのでぜひ読んでいただきたく。

「QJ」欅坂特集号(Vol.129)の武田砂鉄さん連載が面白かった

「QJ」VOL129、欅坂46特集号を読みました。満足度高かった。

 

クイック・ジャパン129

クイック・ジャパン129

 

 

メイン特集:欅坂46

メイン特集は表紙にもある通り欅坂46.アイドルグループは「顔と名前が一致しない…!」と悩む人も少なからずいると思いますが(私もわりと人の顔を認識するのが得意なわけではないのでもどかしく思うこと多し)、そういう時はこういう一冊があるととても助かるし面白さが広がるのでオススメです。メンバーのインタビューと写真が充実していて素晴らしい!

また、秋元康をはじめとして、「大人」にもインタビューをしているので、「商品」としての欅坂の側面も見れるのがいいですね。

 

気になったポイント

・べりか(渡辺梨加)の不思議な感じ(「徳山大五郎を誰が殺したか?」でもめっちゃ不思議なオーラ出てますよね。憑依型の能力者みがある)

・「学業はアイドルにどう役に立つ?」学業をがんばっている&大学に通っているメンバーの座談会。尾関梨香さんの〈国語とか超苦手なんですけど、数学と物理と科学は大好きで。でも、両親に「うちは文系の家庭だから絶対、授業についていけなくなる」とか言われて、大学は文系に進んだんですよね〉全然本筋とは関係ないがめちゃくちゃ気になる発言。

・秋元康インタビュー〈僕はアーティストではないんですよ。職業作詞家なんです。僕の言葉ではなくて、彼女達の言葉を書くのが仕事なんですよね。欅坂46のこの子たちがなにを歌ってどんな目をしてパフォーマンスしたら一番ぐっと来るかなって考えたとき、大人への反抗、ということだったと思います〉恐ろしいひとだ……。

www.youtube.com

「アインシュタインよりディアナ・アグロン」も炎上してたけど、これは世の中の「なこみく・めるみおにはこれくらいのレベルの女の子でいてほしいな~」というニーズをくみ取っているんやな。あと久々に聞いたら曲がいい。

・カシワイさんのマンガ「運命と決めた」アイドルの衣装は戦闘服なんだよな、とてもよくわかる

 

その他特集&連載:武田砂鉄さんの連載がとてもよかった

武田砂鉄さんの連載「リツイートの現場」第6回、テーマは「女性誌の着回しコーディネート企画が野次られる」。女性誌の着回し企画のストーリーのおいおい具合はツッコミの対象になりますが、今回の連載ではその企画を分析しつつ、作り手である女性誌の編集者にインタビューをしていて、ものすごくボリュームがあってドキドキするコーナーでした。

匿名の編集者による分析がすごい。

〈今は、読者が本当にキラキラしていて、等身大の自分を信じています。(中略)雑誌が嗜好品になったことで、ルサンチマンを持つ人はもはや雑誌を買ってもくれません。褒められたい、っていう願望が渇望している人が買うのではなく、ある種、当たり前に褒められたい人たちが手に取るんです〉

キラキラしていてお金を使ってくれる、目に見える読者に対して、真剣に「彼女たちが求めているもの」をぶつけ続けるのは難しいですね。ついつい茶化したくなるけど、すごいことをやっているのであった。

 

紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす

紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす

 

砂鉄さんはネットで荒れたものとの距離の取り方がうまい。見習いたい。 

 

その他特集で気になったもの

佐藤流司さんめっちゃイケメンですね……。

2017年にプレイした「車輪の国、向日葵の少女」(PC版)感想

2017年はやり逃していた名作ゲームをプレイしていこう……という決意のもと、プレイしました「車輪の国、向日葵の少女」(PC版)。PC版の発売日は2005年なので、11年くらい前の作品です。

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車輪の国、向日葵の少女(通常版)

車輪の国、向日葵の少女(通常版)

 

 (↑Amazonリンクは全年齢版)

 

このゲームにはとある大ネタが仕掛けてあり、大学時代に所属していたミステリ小説研究会ではよく話題に上がっていました。実はすでに先輩&同期からその大ネタに関してはネタバレを食らい済みです。

とはいえ、その大ネタ以外何も知らず、どういうヒロインが登場するかも知らない始末だったので、長らく「プレイしなきゃなー」という気持ちはありました。というわけで、プレイしてみたよ!

 

あらすじ

現代の日本と似ているようで、かなり異なる歴史を歩んできた世界のお話。その国では罪を犯した者は刑務所に入れられるのではなく、「義務」が課せられる。時間を大切にしない者は「1日が短くなる義務」。保護者との間に問題がある者は「大人になれない義務」。異性との関係で問題を起こした者は「恋愛できない義務」……。これらの義務を課せられた者たちは、「特別高等人」によって更生指導される。

「特別高等人候補生」である森田健一は、ある田舎町に最終試験のためにやって来た。彼は3人の少女たちの更生を担当する。しかし彼には、この田舎町に関する過去と確執があり……。彼女たちと過ごす夏の日々は、やがて過去のあやまちと絡んだ大きな物語へとつながっていく。

 

全体の構成

全5章。わりと一本道。ヒロインごとの分岐はありますが、大筋はみんな一緒です。

 

ヒロイン感想

・三ツ廣さち(第1章)

「1日が12時間しかない義務」を持つ少女。さちは1日の半分、特殊な薬によって「止まって(眠って)」いる。この義務は、きちんとした労働をせず、ギャンブルなどに身を費やした者に課せられることが多い。明るくムードメーカーだが、感情的で、怠惰なところがある。身寄りがない異国の少女・まなを拾い、妹としてともに住んでいる。

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第1章からいきなりめっちゃきつかったですね。さちは明るくてかわいくてスポーツ少女っぽく(あとエッチなことにも興味津々で)最高の造形なんですけど、本当に怠惰で臆病。義務の中で生きてきてその生活に慣れ切っているのでしょうがないところもあるのだけど、自分が言ったことも守れないし、追いつめられると他人に責任を転嫁する。

たぶんこれが闇金ウシジマくんだったら一瞬で風俗に落とされるキャラなんですが、本作では風俗に落とされない代わりに、ものすごくリアルに嫌なところが描写されます。途中何度も「この子と付き合いたくねえ!」と思った。何度も何度も(プレイヤーとして)見放しかけ、実際主人公も見放しかけたところで、話が大きく動いてきます。

動き始めてからは怒涛。ご都合主義にならず、怠惰と自分勝手の代償をきちんと支払わされるところもよかったです。あと1章が終わったあとは更生しているので、すごく気持ちのいいキャラになっていて、担当章が終わっているのに(プレイヤーの)好感度が上がっていきました。

 

・大音灯花(第2章)

「大人になれない義務」を持つ少女。保護者の言うことに絶対に従わなければならない義務で、毎日保護者の大音京子が指示する通りに生活している。学級委員長を務め、一見かしこいキャラに見えるが、実はあまり要領がよくなく、うっかりミスも非常に多い。毎日指示をされる生活に慣れているため、決断力がなく、優柔不断。ツンケンしている表面とは裏腹に他者に依存しやすい。

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第2章は毒親(機能不全家庭)のお話で、モロにきつかったですね。「頼むから早くこの家を離れてくれ!!!!」とヒロインに向かって叫びたくなるのですが、離れちゃいけないのが義務なわけで…そしてこの環境では、離れるなんて思いつかないのも当たり前であって……。

話が進むにつれて、家庭環境の最悪っぷりと、灯花の優柔不断っぷりを延々読まされることになり、苦しみながらクリックしていました。灯花は作中、重大な決断を迫られるのですが、そんな重大な決断が彼女にできるはずがなく、「どうしよう」「わかんないよ」「どうすればいい?」「私バカだから…」と(やや舌っ足らずに)問い続けるのです。ウッ……発言小町にでも聞いてくれ……そんな全身で「あなたの選択によりかかります!」と主張しないで……と苦しみました。

ずるい(うまい)ところは、彼女とのピンクなシーン。もともと子供っぽい喋り方をするキャラですが、いざ恋人同士になって体の関係をもつと、全力で甘えてきます。セリフ表記が全部ひらがなになるレベル。庇護欲と嗜虐心が湧くようになっていて、よくできたキャラクターだ……モテる……と震えました。ヒロイン内での人気投票も1位だったようです。まあセックスにめっちゃ依存しそう。

章のオチは「お前、本当にそれでいいのか」と思ってしまいますが、まあ、構成としてはよくできている。ただ私は本当に機能不全家庭ものが苦手なので、この選択をされるとどうにも居心地が悪くなってしまうなと思いました。

 

・日向夏咲(第3章~)

「恋愛ができない義務」を課せられた少女。異性との肉体的接触が禁じられている。もともとは天真爛漫で友達が多く、ひまわりのような少女だったが、今では見る影もなく、おどおどと猫背で過ごしている。天然というかマイペースというかぼーっとしているというか、コミュニケーションがうまく取れないことも多い。自身を卑下する発言が多い。

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第3章は、主人公が抱えている過去の話をしつつ、核心に迫りつつ、夏咲の心に潜っていくような話で、とにかく鬱屈としていましたね!!!夏咲は過去では非常に魅力的なんですが、現在の彼女は本当にきつい。会話が成立しないのがきつい。ただそんなつらい人間になった原因もしっかり描かれるのでまたきつい。

終盤の切り替わりは鮮やかで、お話の作りとしては好きなんですが、ヒロインとして好きかというと、実はその後の展開が怒涛すぎてある意味割を食っているかも…。

 

・例のあの人(全編?)

存在について触れることが巨大なネタバレなのであまり詳しく言えない。

児童虐待だと思う。でもおいしいので許す。このポイントについてはギャグシーンが実はギャグじゃなかったりしていて、細かく伏線が貼られていて素晴らしかったです。

 

・卯月セピア

狂人っぽい言動をする主人公のクラスメイト(男)。彼の言動は最高だった。卯月ルート欲しい。

 

・法月将臣

主人公の指導者。冷静冷徹、すべてを見切ったような態度を取る恐ろしい上官。若本ボイス。法月最高でしたし広い意味ではヒロインでしたね。4~5章の展開があまりにもアツく、1~3章で「うっこの描写のねちっこさ、すごいけどきつい」と思っていたところを吹っ飛ばされました(もちろんそれだけ鬱屈とさせられたから爆発力がでかかったというのはある)。

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4章と5章のとある大きなミステリ的ギミックは、「スパイラル~推理の絆~」の小説版第1巻「ソードマスターの犯罪」を思い出しました。大ネタばっかり注目される「車輪の国~」ですが、終盤のバトルもミステリ力が高い!

 

小説 スパイラル‐推理の絆―ソードマスターの犯罪 (COMIC NOVELS)

小説 スパイラル‐推理の絆―ソードマスターの犯罪 (COMIC NOVELS)

 

 (↑小説版スパイラル、ド名作なのですが、電子化も文庫化もしていないので勧めにくい。本当に惜しい……)

 

全体の感想

おもしろかった。プレイしてよかったです。ヒロインたちの言動でストレスを溜めさせて、章ごとにそのストレスを解消させてカタルシスを与え、んでもって大ネタで「うおおお!?」とさせて、そして畳みかけるようにクライマックスに走っていくの、素晴らしい構成でした。よくできてる。名作です。